国は荒れ果て、悲しみの雨のみが降り続く。
ようやく着いた故郷にただただ溜息が混ざる。
「ここが・・・フライヤの故郷・・・?」
そう・・敵以外の気配は・・!
ジタン フレア ビビの順に歩いていくが、一人だけぽつんと立っているモノがいた。
当の本人。
フライヤだった。
「・・・私がこの国を出てはや5年。この国・・麗しき水が照らす国の夢を何度見たことか・・・。いや見ぬ夜などなかった・・・だが・・・」
首をだらんとさせ、振るフライや。
「・・・・・私はこの国を守りきれるのだろうか・・?」
「大丈夫だ。俺がいる!」
「僕も頑張る!!」
「・・・・・・・・・・・」
やる気を起こすジタンとビビに対し。
フレアは空を見つめつづけていた。
降りしきる雨に濡れる顔・・。
「どうしたんだ?フレア?」
「・・・・・・血が・・・」
「・・・?」
「・・・あの時の・・・街・・・?」
「・・・どうしたんだよおい!」
「・・へ?」
今度はきょとんとした顔でジタンたちを見る。
「なにか?」
「いや・・お前なんかおかしかったぞ?」
「は?なにが?」
「なんか 血とか-」
「!! それは本当か?」
「え?う・・うん・・」
『もはやお前は限界に来ている。この血を嗅ぎ、雨に流されるとお前はどうなるか・・分かっているな?』
知っている。でも・・・。
『お前の仲間は任せて私に肉体を奪わせてくれないか?』
お前は暴力的だからなぁ・・・。
『・・せめて不器用だといってほしいのだが・・』
だからといってもお前にこの身体はやれない。
『そうか・・ならば最悪な状態に陥った時、我は現れよう・・』
「まぁ・・大丈夫だ」
そんな風に言うフレアの顔を見るジタン。
「本当の本当か?」
「・・・・うん・・」
「まぁ、行くか!ここにいてもしようが無い」
そう言って歩き出したが、「あれは・・」
そう。目の前にちょこんといたのは忘れもしない。
「おじゃるさんとごじゃるさん?」
「「ちがうーーーーーーー!!!!」」
もはや名も無い状況のピエロが二人。
「ほんと~にしつこい奴らでごじゃるよ!」
「というか名ぐらい知って欲しいでおじゃる!!」
双子のピエロはある物体を呼び出した。
それは、ビビと似ても似つかぬ存在。
「キル!」「キル!」
しかし、それを呼んだ瞬間。
砂にされる機械。
「・・フレア?」
こんな時は以前のように一言言ってからぶった切る筈・・。
なのに今 目の前にいたのは 悪魔のように無言で無表情。
まるでそれは鬼神のように機械はいなくなっていったのである。
「どうしたんだフレア・・・・」
「・・・・・・?」
「いつものお前じゃないぞ?」
「は?だからさ・・大丈夫だって-」
笑っているフレアが見たものは砂にされてしまった哀れな機械たち。
「・・・なんだこれ・・」
そんなこんなよりも機械がやられていく中をボー・・・と見ていたピエロ二人。
はっ・・・となんとかピエロの二人は気がついたらしい。
「そんな事ばっかりしているとあの女将軍に怒られるでおじゃるよ!」
「そうでごじゃる! あの女将軍を怒らすと恐いでごじゃるよ!」
そう言いつつ去っていってしまったのだ。
フレアがおかしいとかそんな事を言っている場合ではない。
早く、ブルメシア王の安否を確認し、アレクサンドリア兵を倒さなければ。
しかし、足は立ち止まる。
「ジタンよ・・。この階段の先はブルメシアの王宮じゃ。これまで見た国の荒れ様を見ると私はこの先へ進むのが恐ろしい・・」
「ここで立ち止まっちゃだめだ!あいつらの正体を見極めようぜ!」
「ボクもボクと似た格好をしたあいつらが何者なのかを知りたい・・・怖いけど・・ここまできたら・・」
「ほら、こんな小さなビビだって!この現実を正面から見つめようとしているんだぜ?」
「フライヤお姉ちゃん、一緒に行こうよ、ねえ・・」
そう言って ぎゅっ とまるで子供のようにフライヤの服を握った。
「ビビよ・・ お主怖くはないのか? お主がこれから見る現実は、お主の生き方に影を落とすやも知れぬぞ?」
「そうかもしれない・・ だけど・・だけどボクは・・ ボクがどんな人間なのかを知りたいんだ。もしかしたら・・・。人間じゃないのかもしれないけれど」
『私はあなたの大切な娘じゃないのか!!!』
『お前は私の可愛い人形だ。感情も無い ただ単に力があるだけの』
ビビの言葉にびくりとなるフレア。
忘れもしない。
己と己の中に眠っている獅子を滅茶苦茶にした人物がいった言葉。
でも。
今は目の前に守りたい仲間がいる。
『それは、本当に守りたいモノなのか?』
ああ・・・。
『なら、お前はお前の過去を乗り越えれる筈だ。我が無くても我の存在が無くなっても』
でもまだ・・。
お前と一緒に居たいし、お前も私のようになって欲しい。
それが長年一緒にいる、お前に対する本当の気持ちだ。
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王宮に着くが、誰の気配も無い。
しかし、ただ一人のみ闇の気配を感じていた。
フライヤだった。
「フライヤ!」
ハイジャンプしたフライヤは下の三人にこう言った。
「王宮の中に人の気配がする!お主らも、早く登ってくるのじゃ!!」
「登れって言ったってなぁ・・。オレ達は、フライヤほど簡単に登れやしないぜ・・?」
しかし、しっかりと手を握る所があった。
「よし・・ここから登ってみるか!」
よじよじと昇り、フライヤの所へといった。
「おい、お前たちも登って来いよ!」
「・・・ぼくは・・高所恐怖症なんだ・・!」
「・・・。分かった。どっかから隙間を見つけて入って来いよ?」
「じゃあ・・私と一緒に行こうか?」
「う・・うん・・」
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「だれかいる・・!」
フレア・ビビと別れたジタン・フライヤはすぐさま大きな像に隠れる。
「素晴らしい雨じゃないですか、まるで…… そう!まるで我々の勝利を祝福してくれているかのような……」
「おお、クジャよ! お前のくれた黒魔道士達のおかげで、ブルメシアは既に征服したも同然じゃ!
だが、肝心のブルメシア王の姿が見当らんのじゃ!ブルメシア王を仕留めなければしつこいネズミ達は、また勢力を盛り返すだろう・・!どうなっておるのじゃ、ベアトリクス将軍!」
はっ と言う可憐な女。
(あれがベアトリクスだ。かなりのやり手だぞ・・?)
こそりという、フライヤ。
「ゾーンとソーンには、ブルメシア中をくまなく捜させております。私も直ちに捜索に参加してまいります」
「無駄なんじゃないかな?」
「?」
「知ってるかい? ネズミってのは地震が起きると集団で引越を始めるんだ。今度は砂のお家にお引っ越し・・。
文字通り、尻尾を巻いて逃げていったよ、王様も一緒にね。でも・・・」
振り向きにこやかに言うクジャ。
「ここに2匹、ネズミが現れたら君にとっても面白くなるだろうね?」
(まずい!)
「滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め 始原の炎甦らん・・・」
しかし、クジャの詠唱とは違う声がその場に広がったのである。
それはまるで獣のような低い男の声。
「我が血と名を持って 火よ ここに命ずる・・・」
二つの火の塊は交錯する。
「「フレア」」
フレアの「フレア」。
クジャの「フレア」。
しかし、火の力の違いはさすがにあったらしく。
「くっ・・」
クジャが膝をつく。
「何とか間に合ったみたいだな」
そういったのは、フレアではなく 違う存在だった。
そう。獣の力 サクリティス。
獣の瞳が煌きを放ち、獣の耳は全てを聞く。
「・・・・フレア・・・?」
その声の主、ジタンを睨み付ける瞳はとても冷酷だった。
とても・・あのフレアの瞳には見れなかったのだ。
「・・・お前はいったい何者だ!!」
己の魔力とは違うこいつは一体何者だろうか・・?
「雨は、悲しみと慈悲を与えるものだ。お前達の勝利など無に等しい」
「なっ・・」
クジャは驚愕する。
この少女の気配は無かった筈なのに・・聞いていたのか!?
「フレアー・・・」
後ろからパタパタと付いてきた影。
「・・?お前は・・確かビビと言ったな」
「・・う・・うん」
「戯言はここまでです」
全ての気楽さがその言葉で終わりを告げる。
「百人斬りの異名を持つ私にとってお前達など、虫ケラに等しい・・しかし・・そこの女」
ベアトリクスはフレアを指差す。
「実に興味深い。しかし、邪魔をするなら今ここで切り去って上げましょう」
「こっちは興味ないな」
「!?」
「だが、お前こそ どの力にモノを言っているか分からせてやろうか」
出来たてのオリハルコン製の剣を持ち 構える少女。
「我が名は、サクリティス=リヴァイア・・・肉体フレア=リヴァイスの力の源だ・・」
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剣と剣が混ざり合い火花が散る。
「ストックブレイク!!」
ベアトリクスはそう言って一気に切り落とそうとするが、見切られているかのようにかわされている・・?
「覇斬」
相手は受け身の姿勢を取っているのにもかかわらず、一気に剣で叩きつけるサクリティス。
しかし、以前からあった「離散」の力は無かった。
「・・・・・」
自らの剣を見、苦笑する。
抵抗しているのだ。もはや活力が無いと思われる肉体の抵抗。
しかし抵抗した所で何の役にも立たない。
そう思った時 心の中で ぎしっ という音がした。
「・・・そろそろやめないか?」
「・・・?」
「お前も限界だろう? 私も限界だ。残念ながらな」
「・・っ!! まだだ・・まだ私は-」
その言葉を遮り、発する言葉。
「去れ」
低く獣が唸り声を上げるかのように、その場に鳴り響く言葉が一言。
その一言で十分だった。
「もう一度言おう。去れ。ここは汝の力を発する事も出来ず。
孤独と悲哀が重なり 抵抗も弱くなり 力はそれに対し微笑むだけの虚空の場になるぞ」
その言葉をどう心の内にとめたのか。
それはベアトリクスにとっても、クジャにとっても、勿論ブラネにも分からなかった。
しかし、その言葉だけで退散しなければならないというのは分かった。
理由はわからないが・・。
そうして後ろを振り向き・・・3人は去っていった。
「今のは一体・・?」
そう疑問に思っていたのは寧ろ味方のほうだったりする。
「な・・なぁ・・フレア-」
恐怖に襲われながらも、ジタンは中身が変貌しているフレア(サクリティス)に声をかけた。が。
「・・・」
何も言わず、寧ろ睨んでくる・・殺気。
「・・えっと・・今のは・・」
「言霊だ」
「へ・・」
そう言って、ブルメシアの出口へと向かうフレア。
「おい・・ちょっと待て-」
「お前達など興味も無い。私は一人で行く」
「何処へ・・?」
「さぁな」
それに・・・「お前達には関係無いだろ」
そう捨て去り、ブルメシアの霧へと消えていこうとした。
「フレア・・・一つだけ聞いてもいいか?」
「・・・」
振り向く殺気のような瞳。
「リーズはどこにいったんだ?」
心が疼く。
「それに、俺 ダガーを探してるんだよ」
また心が疼く。
「だから一緒に」
また心が-。
「やめろっ!!」
そう言ってサクリティスは剣を抜き、構え、ジタンに向けて攻撃を仕掛けた。
ぎぃんという剣と剣がぶつかる音が雨の中、空しく響く。
(お前にも教えてあげたいんだよ)
「やめろ・・・」
(人と人とのふれあいの中に暖かさがあることを)
「やめろ・・・!」
(それに気付いたらお前はもっと・・強くなれると思う・・だから-)
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
絶叫の中、剣を振り乱れ。
そして・・・。
きぃん。
サクリティスが握っていた剣が床に刺さり落ちた。
「・・フレア・・」
ざぁざぁ降っている雨の音だけがその場を静かにさせる。
「・・・私の・・心は弱いな・・」
「・・・・・」
ぽつりといった言葉は哀愁が漂っていた。
「ずっと 人を恨み 信頼すらしていなかったから・・」
そして、己の経験の罪を言葉に託す。
「後悔しても遅いと思う・・だったら今何をすべきか」
「私もやっと目的を見つけたのじゃ・・お前とはあまり変わらんよ」
「俺も手伝うから、な! 甘く見るなよ?」
3人の人々に励まされ・・ついに顔を上げるサクリティス。
「・・ありがとう・・。私の名は獣の力 サクリティス。 サクでいい」
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「そういえば、ブラネ達は砂の家とかなんだかいってたな・・。その 砂の家はどこか・・フライヤ知ってるか?」
「ああ・・それはいつも砂嵐に隠れているクレイラという樹じゃ」
「じゃあ、目的地はそこだな!
行くぞ!サク!ビビ!フライヤ!」
クレイラにむけて歩き始めた一行。
しかし、その後 最悪な状況に化すことを今だに誰も知らずにいた。
それは運命の悪戯のように・・旅人達を迎えたのだ。
しかし、クレイラを守りし砂嵐は 彼らが来たとき 消滅寸伝の危機におちていた。
「なぁ、サク」
ざくざくと音がする中、声をかけるジタン。
「・・?」
サクは振り向き、冷静な面持ちな顔をする。
「言霊・・だとかいってたよな?
それってどんな効果があるんだ?」
「・・・悪しき心を持つものこそ、怯えには敏感だ。
それを言葉で表したものを言霊と呼ぶ・・」
「・・へぇ・・。俺にもできるかな」
その言葉をよそに、サクは歩き続けた。
ジタンを無視して。
「ひゃあ・・」
そう、声を上げたのはビビだった。
目の前には小さな砂地獄が集中していた。
「・・これをどうやって飛び越えろというんだ・・」
「・・・・飛び越えることはできるぞ?」
そうサクが言った刹那。
それは、獣のように。
それは、風のように。
飛び越えていた。砂地獄を。
「え・・」
「ほう・・ならば私でもできるな」
そう言って、フレイヤもひゅんひゅんと飛んでいく。
「ちょ・・俺はどうやって飛べば-」
おろおろとしているジタンを見くだかしたような一言が飛んでくる。
「自力で飛んで来い」 とサク。
確かに、それはそうだ・・・が・・。
「お前が飛べずに誰が飛ぶんじゃ」とフライヤ。
そりゃあ・・・俺飛べることは飛べるけど・・。
だああああああ。もう!
「わかったよ!飛べばいいんだろ 飛べば!!」
そう言って飛んだ。
高く高く舞い上がり・・そして・・?
一気に地面へと落ちていった。
「いってぇぇぇ・・」
「後は・・ビビだけだが・・」
そう言ってサクはため息をした。
フレアの記憶によると ビビは高所恐怖症。
そんな彼がこれを飛び越えるのは不可能だ。
しょうがない。
「私が行くとするか」
行きのように帰りも飛べばいい。
ただそれだけのことなのだから。
「ご・・ごめんね僕・・」
「黙っていろ。舌を噛むぞ?」
そう言ってまるで慣れたかのように砂地獄と砂地獄の間の地面を蹴って行く。
こうして、なんとか砂地獄を乗り越えたが。
「俺もビビのように抱いてくれればよかったのに」
「誰がやるか」