西に広がる大きな沼。
そこにはク族という種族が住んでおり、その種族は食に生きがいを求めていると言い伝われている。
特徴は大きな体とその長い舌。何故か皆コックの帽子を被っており、食べられる物ならなんでも食すある意味凄い暴食者である。
そしてその種族とも思われる人物はその沼にいた。
「腹減ったアル」と呟きながら。
「ここが噂のク族の沼ですか~」
その広さにリーズは驚いた。
リーズとフレアの故郷アースは森が陸地の大半を占めており、沼地など小さなものしか見たことがないのだ。
「色々と冒険してきましたが、こんな巨大な沼地はみたことないですね~」
「それだけじゃないぜ? ここには大量のカエルが住んでいるんだ」
そう言うとジタンは面白半分にカエルを捕る。
そんなジタンに「ジタン後ろ!後ろ!」とビビは大声で言う。
ジタンは振り返り、ぎょっとした。
滴り落ちるはその者の唾液。
見つめる先はもちろんカエル。
「カ、カエル持ってるアルね!そのカエル、美味そうアルね。ワタシ、カエル大好きアルよ」
「あ、あんた何だよ?」
「ワタシ、アルか?クイナというアルよ」
「クイナ、このカエルが欲しいのか?」
「欲しいアルよ。欲しいアルよ。」
手をぱたぱたさせアピールするクイナ。
「…じゃあやるよ。別に俺はいらないしな」
ジタンは手足をジタバタさせている可哀相なカエルをクイナに渡す。
さっとクイナはもらい「貰ったアルよ! 返さないアルよ!」と言い放つ。
「…いや、逆に返さなくて良いよ」
はぁ、とジタンは溜息をつきムシャムシャと食べているクイナを見つめる。
「クイナよ、カエルを人から貰うようではお前もまだまだアルな」
食べ終わったクイナはその声で振り返った。
「クエール師匠!」
「クイナよ、このカエルばかり捕まえていては食の道を究めるのは難しいアルよ」
「でもクエール師匠。ここのカエルは最高アルね!何処に行っても、ここ以上のカエルなんか見た事ないアルよ」
そんな微笑むほどのマイペースなクイナの言葉を聞いて「アイヤ~!!」とクエールは叫ぶ。
「ここのカエルだけで満足してるとは…。お前はまだまだ食の道は遠いアルね。世界は広く、食せるモノは数え切れないアルね。勿論カエルも世界中にいるアルよ。ここだけではなく、他の地も訪れ、世界の食を知るアルね」
「他の世界アルか…。その発想は無かったアルね。ここより美味いカエルがいるアルか?」
こくりとクエールは頷いた。
「勿論アルね!! ワタシ達ク族は大好物のカエルを食せばとても成長出来るアルね。我々ク族の棲んでいた地が外の世界にもいくつかアルよ。それぞれの地のカエルを食せば、お前にとっての食の道がきっと見えてくるアルね。旅をしながら、ク族の沼を探すアルよ」
「分かったアル。早速旅立つアルね!」
やる気満々になったクイナは自分の家へと戻っていく。
「そうでした。クエールさん、ここら辺でエルフの子を見かけませんでしたか?」
「見かけたアルよ。今はワタシの家で眠り続けているアル」
「…なんですって!?」
* * * *
クエールの家は沼地の中心に建てられていた。
その布団で眠っているフレアをリーズは見つめる。
はぁはぁ、とフレアの呼吸は乱れている。
リーズは頬を触れてみた。
「…熱があるようですね」
「沼で気絶をしていた所をワタシが見つけたアル。それからずっと呼吸は乱れ、熱はどんどんとあがるばかり…。一体どうすれば良いのか分からなかったアル…」
「ご面倒、お掛けいたしました」
ぺこりとリーズはクエールに対して頭を下げる。
「あいや~。別に大した事してないアル」
リーズは思い詰めた顔でジタン達を見つめる。
「ジタン達は先に行ってください」
「リーズさん…」
「私は最愛なる相棒としてフレアの看病に集中したいんです。本当は一緒に行きたかったんですけど-」
「大丈夫です。貴方とバッシュさんのお陰で私ようやく吹っ切れました。しっかりと自分の身とチカラのコントロールしていきますから!」
「分かった。ここで一時お別れだ。さよならなんて言わないからな!」
「僕もリーズの分まで頑張るよ!だからリーズも」
リーズは微笑み「ありがとうございます、皆さん」と言った。
「旅の方、このクイナにも、いろんな世界の食を見せて欲しいアルね。食べ物のあるところなら文句言わないアルよ」
ジタンは恐る恐るクイナを見つめた。
だが…嫌とは言えない、寧ろ言い難いムードになっていた。
「よ…よし分かった!俺達と一緒に行こうぜ!」
「ここよりも美味いカエルが食えるアルか?」
「…まぁ、カエルより美味いのだって世の中にはいくらでもあるさ」
「カエルより美味いアルか!? それならついてくアルよ!!」
クエールとジタンは はぁ、と溜息をついた。