総合計6人となった一同は木の蔦のようなものの道筋をたどっていく。
「あれ…なんか遠くに大きい樹が…」
「あ、こら!エーコの家はそっちじゃないんだからね! そっちはイーファの樹!」
「…イーファの樹?」
「聖域じゃないのか?」
男二人に質問され、自信気にエーコは言った。
「それはドワーフの人達がそう呼んでるだけで、エーコ達はイーファの樹って昔から呼んでるんだ」
「ふーん…」とジタンは興味がなさそうに言ったが、シガンは少し考え込んでいた。
(『あの人』が作るにしては妙なものだな…。 果たしてあれは『あの人』が作った建築物か、それとも…)
道ある道を潜り抜けてたどり着いた場所は聖地とはいえないであろう廃墟であった。
「ジタン! ここがエーコの住んでいる召喚士の村、マダイン=サリなの!」
「…ここが?」
「私には遺跡に見えるぞ…」
「何があったのかしら…。 まるで廃墟だわ」
と個人的な感想をその場で出す。
そんな人を見ながらフレイアは階段らしきところに座ろうとした刹那。
ふわもこなモノが「クポー」と言いながら飛び出してきた。
しかもそれは1匹でなく、5匹も。
驚いてフレイアは「ふわぁっ」と声を出した。
「モチャ、モコ、チモモ、モーネル、モリスン! …あれ、モグはいないの? まさか―」
最悪な事態を考えてしまったエーコだが、こそりこそりと恥ずかし気にしている小さいモーグリーを見つけた。
「モグ! …もう、心配したんだからね」
「クポ、クポ」
まるでごめんなさいと言わんばかりに頭を下げる小さなモーグリー。
「シガン~! ついてきて~!」
と言われ、遺跡に見えるその廃墟を見ていたシガンは「何だ」と言い、ついていった。
「ああ~、シガンおじさんまた始まったよ…」呆れ果てたフレイアはシガンの後ろ姿を見ながらそう呟いた。
「なにが?」
「お姉ちゃんもそうだけど、二人とも遺跡みたいな古い建築物になると妙に調べまくる性質なんだよねぇ…」
「それでついていったってことか…」
そんなシガンはエーコの家の中へと入っていった。
「シガン! こっちに座って!」
とエーコに言われるがまま、シガンは座った。
「エーコね、シガンに興味があるんだ」
「…そうか」と言いつつ周囲を見渡す。
岩で作られた家だが古いとはいえ、かなり清潔に、そして整理されていた。
「えっと…シガンって何処の人!? シガンって歳はいくつ!? シガンって何をしてる人!? シガンって何処に行こうとしてたの!?」
エーコのキラキラした瞳に対して、シガンは溜息をして「興味無い」と言い、ガタリと立ち上がり、そこから立ち去ろうとする。
「ちょ…ちょっと待って―」とエーコが慌てて立ち去ろうとするシガンを引き留めようとする刹那。
「片付いたクポー」というモチャの声が響き渡った。
「ありがとう。 あのね、エーコ今からお料理するから絶対食べていってね!」
「…料理?」ぽつりとシガンは呟いた。
一方。ビビは一人で村…というか廃墟をさまよい歩いていた。
それを見て不安げな顔でフレイアがついてきた。
「ビビ、大丈夫?」
「う…うん」
そして地面に二人共座った。
「僕…色々悩んでて」
「うん」
「288号さんは、死ぬって事を僕がわかってるって言ったんだ。 でもそれは、止まるって事と、死ぬって事が違うって思うだけで…。
本当は死ぬって事も、生きるって事も、良く…分からない。 何処かからやって来て、何処かへ帰ってくようなもの…なのかな?
もしそれが生きるって事なら…僕は、何処から来たんだろう…何処へ行くんだろう」
「…なんか分かるなぁ」
「…え」
「私もなんだかんだいって「造られし者」だから。
ホントは私、エルフじゃなくてフィニーという不死鳥と妖精が混ざった種で、お姉ちゃんの手に触れられて生まれたの。
フィニーってタマゴだけ出来るんだけど形やチカラは触れられたところでコピーされて生まれてくるんだ。 だから私も他のフィニーがそこにいても分からない」
そう言い、フレイアはうーんと背伸びをした。
「だからその時は仲間というものは全然…どういうものか分からなかった。
でもお姉ちゃんのおかげで沢山の仲間が出来たんだ。
だからその時思ったんだ、私は一人じゃないって」
フレイアの過去を聞き、呆然としているビビをフレイアはにこりと微笑む。
「だからあんまり、生死について深く考えるなってこと! 考えるとしたら、今のことを考えなきゃ、ね!」
「…ありがとう、フレイア。 僕…頑張ってみる」
* * * * *
「で、何を作る気だ?」
冷静淡々とシガンは小さき角の生えた者に対して言う。
そこは川沿いも見える広々としたキッチンだった。そこもかなり清潔にされ整理整頓もされている。
(この少女がやったにしては綺麗過ぎるな…)
シガンはそう考えつつ、うーん…とどんな料理を作ろうか迷うエーコを見ていた。
「拳骨芋がまだ余ってたからシチューかなぁ」
「でも、エーコの料理は割と失敗―」
失敗する、とモチャが言う前に近くに居たモーネルが口を塞いだ。
「失敗、したんだな」
「う…」
「そんな奴に料理を作らせるのは難だな」
仕方ない、とシガンは服の袖をあげた。
「私が作るとするか」
「だ…大丈夫っ! 大丈夫だからシガンは召喚壁見てきていいよ!」
「…召喚壁?」
またしても興味が注ぐ単語にシガンは耳を傾けた。
一方、ジタンは廃墟の奥までやって来たのだが。
「この先は立ち入り禁止クポ!」とモコに足止めされてしまった。
だが…「禁止って出てきた奴いるぜ?」とジタンはそれに指を差した。
それは山道で走り去って行方不明中のクイナ。
「ジタン、ここはダメアルよー…。 この中、岩と石と砂しかないアル。 ワタシ『星の砂』は食べた事アルが、此処のは食べれる砂じゃなかったアルよ。 でも…水は綺麗そうアル」
そう言い残して、クイナは小川に飛び込んでいってしまった。
言いたい放題で行ってしまったクイナに対し、がっくりと肩を落とすモコ。
「ま、まぁガッカリすんな! アイツは放っとくのが一番さ」
「どうした、何かあったのか?」
後ろからシガンがモリスンを連れてジタンに歩み、言う。
「いや…なんでもないさ。 で、エーコから何か聞けたのか?」
「エーコは今料理中だ。 とりあえずの工程は書いてきたが、果たして上手くいくかどうか…」
「工程とか…まるで作業のようなことを言うなぁ、アンタは」
「料理も作業の一環だ。 馬鹿にしたらそれだけでその材料も味も全部台無しになる」
「はいはい、おじさんはいつも料理に五月蝿いね」
シガンの後ろからひょっこりと現れたフレイア。
「それは良いとして…此処に何があるの?」
「特別に召喚壁を見ることが出来る、らしい」
「召喚…壁?」
フレイアの後ろから歩いてきたダガーが言った。
「お前が使う召喚魔法に関する建築物らしい。 一度見てみてはどうか?」と、シガンは提案した。
「そうね…それもいいかもしれない」
「では、こちらが召喚壁です」
そう言うと、ドーム状にくり抜かれた岩の中に通される。
中には円柱が沢山並んでおり、壁にはなにやら刻まれている。
「召喚士一族の皆さんが召喚魔法を研究し、発見した召喚獣を壁に描いた…それが召喚壁です。
召喚士一族は自然を崇める一族で、私たちの暮らすこの世界をガイアと呼び、召喚獣はガイアを守る存在と考えていたそうです。
召喚魔法を調べることで自然と…そしてこの世界―星との一体感を得ようとしていましたクポ。
召喚士一族は500年前にこの地に来ましたが…今は…」
「まるで芸術だな…。 これは全て実在する召喚獣…そうだな」
「クポ。 良く分かりますね。 貴方も召喚魔法を?」
「いや、私の連れが召喚魔法を使える」
「でも、フレイアが使える召喚獣はいないぞ。 それにフレアやリーズも…」
「私が使う召喚獣は特別だから、とだけ言っておくよ。 それ以上は…ちょっと言えないなぁ」
「また時が来たら…言ってくれるんですよね、シガンさん」
ああ、とだけシガンは言い、召還壁を見つめていた。
「でも、そのエーコの仲間は一体何処にいるんだ? いくら見渡してもモーグリーしかいないぞ」
「…それを申し上げることは出来ません…」
「そうか…」
何があったんだろうか、と考えながらも真剣に召還壁を見つめるダガー。
「…ダガー?」
「私…もっと見ていたい」
「ああ、分かった」
そう言いダガーを残して全員召喚壁から出て行った。
その頃、即席の工程表を貰ったエーコはというと…。
「えっと、何人分作らなきゃならないのかしら? ジタンでしょ、シガンでしょ、エーコでしょ。 ビビ…って言ったかしら、あの暗い男の子と…ダガーと…。
やっぱりさすがにフレイアの分も作らないとシガンに怒られそうね…。 それからモーグリーの皆…。 えっと…えっとぉ…」
ぐるぐるとしているエーコに対してチモモが「12人分クポ!」と水を汲みながら華麗にサポートした。
「ありがとう、チモモ! えっと、最初は…『水を沸騰させて南瓜、芋、木の実の順に入れていく。 その時に口の大きさに合うように切ること』…かぁ。 難しいけどやってみよう!」
ぐつぐつと煮込み、材料を入れ20分。次の工程に入る。
「次は味付けね。 『牛乳、バター、小麦粉、塩少々を別の鍋に入れ、かき混ぜる。 その時の火の強さは弱くする。 強くすると焦げてしまうぞ』…。 料理って難しいわね…」
がしがしとかき混ぜながら火を調整していると…。
「か…掛かったクポー!!」とモーネルが叫んだ。
「ちょっと! 何をしてるのモーネル!」
「シチューだけじゃ寂しいと思って魚を釣ってるクポぉ…でもでも、変に重いクポ!」
「大丈夫? ちょっと待って。 焦げちゃうといけないから火を止めていくわ!」
慌てて、味付け用の鍋の火を止め、エーコは竿に猛ダッシュした。
確かに変に重い…。「大物かな…確かに重いわ。 いくわよ、モーネル。 1、2、3!」
一気に竿を引っ張り揚げた。瞬間、どっさりしたものが落ちてきた。
それは…「!!!! 何、この人…」
「もしかして、貴方が…クジャって人ね!!」
エーコは怪しい人物に対して指を差した、が。
「…クイナ?」 そこに現れたシガンは言った。
「あ! もしかして、コンデヤ・パタの山道でモグを追いかけていった…あたしはエーコ!」
と挨拶をしたがクイナはほぼ無視をして鍋へと歩み寄っていった。
「良い匂いアルな」
「食べちゃ駄目よ!」
「まだ調理中アルから、食べないアルよ」
「だが火の勢いが弱いな…これでは精々10人しか食べれない…」
「え…」
「クイナをあわせると13人分か…。 かなりの量になるが…エーコ、水を持ってきてくれ。 後、味付けの材料もだ」
「う…うん! 分かった!」
「ワタシは魚を釣るアル! シチューだけでは少し寂しいアルよ」
「確かにな。 頼む、クイナ」
「でもこれだと火が足りないアル。 火の魔法使えるアルか?」
「マッチ程度なら使えるから大丈夫だ」
こうして料理は完成した。
「すんげ~美味いシチューだな! これなら店が開けるぜ! 魚も美味しいな。 もっと食べたい位だ」
がつがつ食べるジタンを見て、(子供だなぁ…)とフレイアは思った。
「さすがおじさんだね。 作るのも教えるのも上手い。 料理の魔法使いって異名が相応しいよ」
「料理の魔法使い?」
「私達の土地ではそう言われてるの。 料理にはとことん五月蝿くてね…」
「静かに食べることも出来ないのか…お前は」
シガンが溜息をついた途端、ジタンは食べ終わったようで。
「ご馳走さん! ところでエーコ、他の召喚士は何処にいるんだ? 一人も見かけないけど…まさか『地下にいる』なんて言うなよ?」
「地下? うん、皆地面の下で眠ってるの」
「え…」
「エーコは一族の最後の生き残りだから。 1年前お祖父さんが死んでからずっとモグ達と暮らしてきたの」
全員暗い顔をし始めた。
「気にしなくて良いの! 全然寂しくないんだから!
エーコの生まれる4年前、だから10年前? 村が天変地異に遭ってね。 生き残った人達も無事では済まなかったって。
でもエーコはその中で愛し合って家庭を持った父さんと母さんから生まれたの。 っていっても、小さい頃に死んじゃったから顔も覚えていないけど」
「そうか…今俺達はイーファの樹を目指しているんだ。 イーファの樹の事で知ってることあったら教えてくれないか?」
「召喚獣で封印しているから入れないと思うけど?」
「してる? してるって、エーコが封印しているのか?」
「ちょっと違うんだけど…エーコが生まれる前の話なんだけどね。 召喚に失敗した召喚獣をイーファの樹に封じているらしいの。
失敗した召喚獣をその地に封印するのは習わしなんだって」
「エーコ、その封印を解いてくれないか? 俺達、あそこに行かなきゃいけないんだ」
「そ、そんなの駄目に決まってるじゃない!」
「駄目なら無理やり解くしかないな」
食べ終わってたのか、シガンはそう言いながら片付けに入る。
「と…解けないわよ! そんなの!」
「解けるよ、おじさんなら」
「私が解けというのか? フレイア」
「えぇ…おじさんじゃなくて私が解けというの?」
「『アレ』があるではないか?」
その言葉にぴくりと耳を動かすフレイア。
「それとも今回は『アレ』をも持ってきてないのか? お前は」
「まぁ、持ってきてるけど…大丈夫なの? おじさん」
珍しく不安げなフレイアに対し、にこりと微笑んだ。
「任せておけ。 専門だ」
「だ…ダメダメ!」
「駄目だと思うのなら付いて来るんだな、エーコ。 それとも村の外には出てはいけない、とでもお祖父さんに言われたか?」
エーコはその言葉に俯き、黙り込んでしまった。
翌日。ジタン達はシガンが言うように村を出ることにした。
「本当に解けるのか? シガン」
「だから言っているだろう、専門だと」
「かなりの自信だな。 じゃあ任せた」
ぽん、とジタンはシガンの肩を軽く叩いた。
「ジタン、私また此処に来たいわ。 初めて召喚壁を見たときはなんだか怖かった…。 でも中に入って壁画を見ていたら不思議と心が落ち着いたの。 もっと見てみたい」
「ああ、イーファの樹を調べたらまた此処に来よう」
「…ありがとう」
「クイナの奴も釣りを止める気なさそうだし、ここに放っておく訳にはいかないからなぁ」
「もしかして、エーコの為?」と、フレイアは言う。
「エーコってまだ6歳だろ? 強がってはいるけど、きっと寂しいんだと思う。 で、お前は何歳なんだ、フレイア」
「だって私、これでもエルフだもん。 かなりの長命になるよ? えっと…」
「フレイア、言わなくて良い。 それは言うものではない」
「だってさ、ジタン」
「でも、今日はエーコの姿を見かけないね」
「そうだな…」
その時。
「待って!! 私も行く!」
「エーコ!」
「付いてくるか? 私たちを監視する為に」
「う…うん! というか来て欲しいんでしょ?」
まぁな、と軽い言葉でシガンはそっぽを向いた。
(おじさん…もしかして…)
その行動にフレイアは違和感を覚える。
「仕方ないわね! じゃ、しばらく仲間になってあげる! ビビとダガーもよろしくね!! イーファの樹はコンデヤ・パタの山道を抜けた先よ! しゅっぱ~つ!!」