「ここが…ジタン達が言っていた沼地か…」
周囲を見てシガンは溜息をついた。
辺り一面沼に覆われているフォッシンル・ルーの出口。
確かに沼地だとは聞いていたが、これ程とは思ってもみなかった。
慣れない沼地に足を取られながらもシガンは歩いていると、疾風が通った。
否、それは疾風ではない。一瞬一瞬をよく見てみると…。
「サクリティス…リヴァイア!」
燃えるような瞳に尾まである鬣…間違いない。フレアの内に宿る炎獣だ。
炎獣は咆哮をあげながら、北へと駆けて行ってしまった。
それを必死に歩いて追いかけようとする一人の女性の姿をシガンは見つけた。
「どういうことだ。 リーズ」
意外な人物にリーズは驚愕した。
「貴方は…!」
「フレアを迎えに来たのだが。 何故、サクリティスになって走っていった? 一体何があった?」
「迎えに…?」と言うリーズの疑問にシガンは「向こうでジタン達と出会った、といえば話は早いか?」と答える。
「!! そうですか…あの人達と出会ったのですね」
実は… とリーズはほんの10分前の出来事を話し始めた。
それは昼食後のことだった。
いつものようにフレアが食事を食べ終え、リーズはフレアの小さいおでこに手を当てて体温確認をした。
「大分良くなりましたね。 まだ油断は出来ませんが」
フレアの頬を撫でながらリーズは言った。
そう。まだまだ油断は禁物だ。
4つの強大な力を持ち合わせているフレアは倒れるといつも後遺症なのか、愕然とするほどに体調を崩す。
本当ならば「あの人」がいれば、すぐさま保護してくれて、体調が完全に回復するまで治癒をするだろう。
だが…「あの人」とは全く質が違う己でここまでだと…。
(…やはり、「あの人」じゃないと無理なのかも…)
珍しくマイナス思考を掲げるリーズに対し、フレアは外をじっと見つめている。
それが気になったリーズは「何か気になることでも?」と問いてみる。
リーズの言葉に対し、フレアは動揺しながら「う…ううん。 なんでもない」と言いながらまだ外を見つめている。
そんなフレアに対し、リーズは溜息をして立ち上がった。
「私はリンドブルムへお買い物に出かけますからね。 大人しく―」
していて下さい と言おうとした刹那。
突然フレアが立ち上がった。
異様な行動にリーズは「ちょっと! 私の話聞いてます!?」とかなり怒鳴り声を上げてしまったので、後ろでクエールが椅子から転げ落ちそうになる。
「守らないと…! 「アレ」から守らないと!」
そう言い、フレアが近くにあった窓から飛び降りると、咆哮があがった。
「それでああなったということか」
詳細を知り、シガンは溜息をつく。
「申し訳ないです…」
頭を下げながらリーズはシガンに謝る。
「フレアのいつもの我儘だからな。 仕方がないだろう」
「仕方がない、という言葉で済まされる事ではないでしょう?」
知の守護神にそういわれ、シガンは苦笑しながら「まぁ、そうだがな」と呟いた。
「それよりも、フレアを追いかけないと!」
それを聞き、シガンはふと疑問に感じた。
「そういえばお前は何故ヴァシカルにならない? それをすれば追跡できる筈だろう?」
そう。
フレアとリーズ、そしてサクリティスとヴァシカルは鏡のように対になっている。
だが力を発揮するのはほぼ同時…それはまるで双子のような存在だ。
それを知っている…知り尽くしているシガンの問いに、リーズは苦笑しながら…「それが…ちょっとしたことで喧嘩しちゃって…まだそのままなんですよね…」と言う。
「… …。 お前も同罪だな」
リーズは少し反省をしながら苦笑する。
「ならばどうする? フレアは北の山を越えて行ったようだが」
「北の山…アレクサンドリアの方向ですね」
「アレクサンドリア…。 ならばそこに行こう。 そうすればフレイアと合流できる」
「フレイアさんも来ているのですか」
「ああ。 だがジタンに興味を持ったようで、行くなと言ったのに付いて行ってしまった」
大体の流れを頭の中で模索し、リーズは「だれもかしこも自由すぎます」と溜息をつく。
「お前が言うのか?」
「それならば、リンドブルムに行けば、何かしらの交通手段があるかもしれません。 行ってみます?」
そう言い、リーズは少しずつ歩き出す。
それを見て、シガンは「お前が最善策だと考えるのなら」と言いながらリーズと同じく歩いていくことにした。