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これは氷の惑星アースと金の惑星ガイアの物語・・・。
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「すっかり晴れちゃった…」
呆然とイーファの樹を見ながらエーコは呟いた。
霧を生み出していた魔物は倒れ、イーファの樹から吐き出されていた霧はどんどんと薄れていき、陽が眩しく照らす明るい大地となった。
恐らくこの影響は世界中に溢れていることであろう。



「これで、ジタン達の住んでる霧の大陸って所も晴れるの?」
「とりあえずは大元を締めたからな。 後はクジャがどう出るか…」
エーコの問いにジタンは答え、ふと寂しそうに陽に当たるイーファの樹を見つめているビビに「ビビ? どうした?」と問いかける。
「ジタン…。 僕、間違わなかった? さっき僕達黒魔道士は霧から造られたって聞いたよね? あの時、こうしている間にも戦争の為に仲間が造られているって考えたから、僕は何がどうあってもそんな事は嫌だって思ったんだ。 でも…これで黒魔道士の仲間はもう増えないんだと思うと、僕は皆に嫌われる気がする」
不安げな言葉を連発するビビに対し、エーコはビビの背中をバシッと叩く。
「そんな事ないわよ! いい? 自分の気持ちに嘘ついちゃダメなの! だってそんな嘘ついて欲しいなんてあんたの仲間は思ってないもの!」
「そう…かな? 分かってくれるかな?」
未だに渋々するビビに、フレイアからも指摘する。
「分かってくれるよ! 分かってくれないのならそれは仲間じゃないよ!」
それを聞いて、ジタンはふと思い出す。
「そういえば、フレイア。 あの時「皆」と言っていたけど…「皆」って何のことなんだ?」
あの時は6人の仲間しかいなかった。それを「皆」という風に表現するに値しない。
「「皆」は「皆」だよ。 多分ジタンにも、おじさんすら聞こえなかったと思うけど」
「おいおい、またはぐらかす気かよ…」と、ジタンはいつものパターンに怪訝としていた刹那。
一匹のモーグリーが6人の間に現れた。
「モコ!? どうしたの!」
「エーコ! 大変クポ! あのね…」と言い、ごにょごにょとエーコの耳元で何か話している。
「分かった、すぐに戻る!」
「じゃぁ、先に戻って皆に話しとくクポ」
そう言い、モコはその場を急いで去っていった。
「ジタン達ってここでクジャを待つんでしょ? エーコ、ちょっと急いで村に帰るね!」
「どうしたんだ? エーコ」
「村の、大切な宝が盗まれたみたいなの!」
その言葉を聞いて、ぴくりとシガンは反応する。
「エーコ、俺達も行くよ。 いいだろ? 皆」
ジタンは周囲を見渡す。その周囲にいる5人はこくりと頷いた。
「とっても嬉しいけど、クジャはどうするの?」
「マダイン・サリならそう遠くはないからな。 あいつは待たせておくさ!」
こうして一行は急いでイーファの樹を後にする。
シガンはふと、後ろを振り向いた。黄金色に輝くイーファの樹を見つめ、この間何事もない事を祈りながら。


一行がマダイン・サリに戻ってくると、慌てふためているモーグリーたちの姿があった。
「モコに聞いたわ。 どうなの!?」
 モリスンは「とにかく来てくださいクポ!」と慌てて、エーコの部屋へと歩いていく。
それを追いかけて、エーコも歩いていってしまった。
「俺達も行ってみよう」と、ジタン達も追いかけようとするが。
「いや、私が行ってくる。 盗んだ犯人はまだ周囲にいるかもしれないからな」
そう言い、シガンは冷静な面持ちでエーコを追いかけていった。
「…何なんだ…」
呆然とするジタンに対し、「さぁね」とフレイアはさらりと答える。
「ただ、おじさんはもしかすると…」
「…もしかすると?」
「まぁ、あくまで想像だけどね。 エーコをお姉ちゃんの姿に重ねているのかも」
「フレアの? なんで?」
「それは知らないよ。 まぁ、エーコの事はおじさんに任せておけば大丈夫でしょ」
きっぱりと言うエルフの娘に対し、はぁ…とジタンは溜息をついた。


シガンはエーコの部屋へと入っていく。
そこは昨日、7人とモーグリー達とで会食をした場所。
そこに涙を流しているエーコを発見する。
シガンは冷静に「…堪えるくらいなら思い切り泣いたらどうだ」とエーコの背中に話しかける。
びくりとエーコは身体を震わせ、シガンへ振り向いた。
「泣く訳…ないじゃない! エーコはもう一人前なんだから! 泣いてどうにかなる問題じゃないんだからね!」
「それならば改めてお前に問おう。 一体何を盗まれてそんなに泣いている?」
冷静な口調のシガンの問いに、エーコは俯き呟きながら答える。
「大事な…村にずっと伝わる大事な宝石が…なくなっているの。 お祖父さん達がね…『自分達がこの地に生きる証だ』って大切に大切にしていたのに…」
その言葉に対し、動揺すらしないシガンにエーコの哀という感情が溢れ出した。
「…ヒック。 …エーコの。 …ヒック。 エーコのせいかなぁ… ヒック。 約束破ってイーファの樹の封印…解いたからかなぁ。…ヒック。あんなに…あんなに皆が大切にしてたのに…」
「イーファの樹の封印を解いたのは私達だ。 お前ではない。 それに、真に悪いのは盗んだ者だ」
「…うん…! ごめんね、シガン。 変な所、見せちゃった」
「…いや。 別に良い。 大人になろうがなるまいが、泣く時は泣くものだ」
「うん。 じゃあちょっとお祖父さん達に祈ってくる! 直ぐ戻るからね!」
そう言いエーコは明るい顔で振舞い、ぱたぱたと走っていった。
その後ろ姿を見て、シガンは「…やはり『あの時』のフレアとは違うな…」と呟いた。


その頃、マダイン・サリの入口付近で犯人を捜しているジタン達は何かの叫び声を聞いた。
「!!」
「盗んだ犯人はまだここに隠れているのか!」
「叫び声が聞こえた方向へ行ってみましょ!」
ダガーはそう言い、4人は叫び声が聞こえた方向…召喚壁に向かうと、誰かがいるようだ。
そこにいたのは…自称愛の狩人ラニが、軽やかにエーコを持ち上げている姿であった。
(エーコ!)
ジタンの心の声に対し、エーコは「レディに対して何て事するのよ!」とキーキー音でラニを挑発する。
「この背中の羽飾りはなぁに? とっても持ちやすくて助かるわ」
「お祖父さんがつけてくれたの! 汚い手で触んないでよっ!」
「口の減らないガキね! 大人しくしてなさい!」
ジタンはそんな様子を眺めながら「くそぅ…どうしたらエーコを無事に助けられるんだ?」と1人呟いた。
刹那、後ろからゆっくりとシガンが歩いて来る。
「シガン…!」
「大体事情は分かっている。 任せておけ」
「おいちょっと…」と、ジタンが止めようとするが、シガンは言うことを聞かずにラニの前に堂々と姿を現す。
「何よ、アンタ。 もしかしてこの子のナイト様って所かしら?」
ぶらりと捕まっているエーコをシガンに見せながらラニは言った。
「何が目的だ?」
「あら、なかなか話が分かるナイト様で良かったわ。 私はね、お姫様のペンダントが欲しいのよ」とラニは言い、ダガーをにらみつける。
「…ダガーのことか」
「それなら俺が持っている」と、ジタンはシガンに言う。が…シガンは微動だにせずにラニの方へと歩いていく。
「ちょっと! このガキがどうなっても―」と、ラニは挑発するが。
瞬間、シガンは剣を抜きラニの喉元へと刃を近づける。
「…!」
「エーコを放してもらおうか」
冷酷な発言に、ラニはごくりと唾を飲み込み、エーコを掴んでいた手を離す。
「きゃっ! 何よ! このオバさん! もっと優しくレディを下ろしてよね!」
「忌々し―」
忌々しいガキ、とラニは言おうとしたが、喉元の刃を思い出し、口を噤む。
「次は盗んだ物を渡してもらおうか」
「わ…分かったわ…」
ラニはシガンの言うとおりに懐からイヤリングを取り出す。
そしてそのイヤリングをシガンに渡し、シガンはそれをそっとエーコの掌に返した。
ようやく要求が終わったのか、シガンは剣を鞘に戻す。
「本当はこの場所を荒らしただけでも許せないが…特別に許そう。 だからこそ、失せ―」
失せろ、と言おうとした刹那。ラニの口から微笑の声がした。
その行為にいら立ったのか「何がおかしい」とシガンはきつい口調でラニに言う。
「アンタ、気に入ったよ! 物凄く気に入った!」
ラニの突然の言葉に全員呆然とする。
「男らしい奴は私の大好物なんだ! だから、私はアンタに一生付いて行く! いいだろ!?」
ラニの強い気持ちを含んだ言葉に、シガンはぽかんとしている。
刹那、ラニの顔が企みの顔へと歪む。
そして大斧の刃をシガンの喉元へと向けた。
「!!!」
「形勢逆転、ってところね!」
余裕のラニに対し、シガンはラニを睨みつける。

その頃、その一部始終を見ていた4人。
シガンの異変にフレイアは敏感に感じ、ぐいぐいとジタンの服を引っ張る。
「…どうしたんだ、フレイア」
「マズイよ…とってもマズイ」
「そうだな…。 まさか形勢逆転されるなんて…」
「違う違う! 逆だよ逆!」
「逆? ラニが危ないって事?」
「そうだよ、ダガーさん。 おじさん、あの人を殺すつもりみたい」
「殺すつもりって…」
改めて4人はラニとシガンを見る。
どんどんと周辺が冷気に包まれていくのか、先程までは涼しかった風が冷風へと変化している。
「以前言ったように、おじさんとお姉ちゃんは古代建築についてとってもうるさくて、それを荒らされると異常に怒るの。 しかもあのラニって奴に形勢逆転されたら…」
ぷるぷると顔を横に振るフレイア。
「多分、あのままあの人は串差しだよぅ…」

フレイアの言ったとおり、ラニは先程まであった余裕はなくなっていた。
突然、寒くなったのである。
改めてラニはシガンを見つめる。
シガンは 口を利かぬ と言わんばかりにラニを睨みつけている。
否、それは獣のような…神の怒りのような…強烈な瞳。
シガンの体から発される大量の冷気はラニを凍えさせるどころか、凍死させる程になっていた。
とてもじゃないが危険だ。だが、それよりも今はペンダントとイヤリング…についている宝珠の欠片を手に入れなければいけない。
だが…このままでは殺されてしまう。
そう思った刹那、ひゅんと何かが飛んできた。
それをシガンがとっさに剣を鞘から出し、受け止める。
それは逆立った赤い髪を揺らし、武道家が主に使う爪を装備している。
邪魔をされたシガンは歯軋りし、「邪魔をするなぁ!!」と叫び、剣を振りかざす。
それを赤い髪のそれは爪で受け止める。
が、その衝撃は周囲の召喚壁を揺らすほどだ。
「おいおい、このままじゃ…」
「召喚壁が…」
恐ろしい衝撃に、ジタンとビビとダガーが不安気に見つめる中。
フレイアはそれを止める為に召喚壁の中へと入っていった。
「おじさん! ダメだよ! それ以上やったらここが持たない!」
フレイアのその言葉に、びくりとシガンは反応する。
段々とシガンから発していた冷気は薄れていき、フレイアはほっとしたのか溜息をついた。
だが、ラニだけは反応は違っていた。
「どういうつもりよ? 焔の旦那。 裏家業世界ナンバーワンの男が…」
「別に助けた訳じゃない。 戦いを汚されたくなかっただけだ」
「何の事よ。 それよりもこちらは形勢逆転したのに邪魔しないでよね!」
「邪魔しなかったらお前は死んでいた」
それでも良いのなら、と焔の男は冷静にラニに言った。
そして「宝珠の欠片を置いて失せろ」とラニに警告をする。
「ちょっと! これは私とアンタが受けた依頼で―」
「先走った挙句、人質を取り、さらには凍死するという危険もあったのに早めに退却しなかったお前が悪い。 そんな卑劣で危なげな奴とは俺は組まん」
さらりと、しかも図星を言われてしまい、ラニは歯軋りする。
「…覚えてなさい! いつかアンタも狩ってやるわ!」
そうしてラニは召還壁を飛び越えて去っていった。
それを見つめて、焔の男はジタンを注視し「さあ、俺と戦え!」と叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。 どういう事だ? 何で俺なんだし」
「言っただろう…。 純粋な戦いをする為にした事だ」
焔の男の真剣な瞳を見て、ジタンはこくりと頷いた。
「分かった…受けてたつぜ。 って言いたいところだが」
そう言い、ジタンは周囲を見る。
「ここだとまたシガンが怒り狂うことになりそうだから、場所を変えて。 後は…もうすぐ夕飯の時間だろ? その後でどうだ。 腹が減っては戦は出来ず、だろ?」
ジタンの多めなリクエストに焔の男は溜息をつき「…好きにしろ」とだけ言い残し、その場を去っていった。
焔の男の後ろ姿を見ながら、ダガーは「ジタン…本気なの?」と不安気になっている。
「ああ。 言うからには必ず勝ってやるからな! にしても…」
ジタンは改めて周囲を見る。
ぼろぼろにはならなかったものの、地面には未だに凍りついている場所があちこちにある。
冷静冷酷な奴ほど、怒り狂うととんでもないことをするな、とジタンは苦笑した。


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