うーん、と背伸びするジタン。思わず欠伸をする。
まだ起きたばかりの眼を手指でかく。
刹那、部屋の入口からブランクの大声が聞こえた。
「生きてるかぁ~、ジタン」
「何だ、ブランクか」
「なんだよ、その「何だ、ブランクか」って。 俺じゃなくて女王様の方がよかったか?」
「別に…。 ダガーは?」
「なにやらこそこそと自分の部屋で何かしてたが。 その前に、リーズのお嬢ちゃんが呼んでたぜ。 大公の間に来いってな」
「そっか」といいつつ、ジタンは素早く身支度して、颯爽と大公の間へと足を運んだ。
そこにはブリ虫が似合い続けているシド大公と、文臣のオルベルタがいた。
「あれ、リーズは?」
「うむ。 まずは先日のアレクサンドリアの事件のことを話しておきたいブリよ。 色々と分かったことがあるブリ」
「他の皆さんは下の会議室に既に集まっておいでです。 直ぐにでも会議を始められましょう」
「ならば、始めるとするかブリ」
「では、ジタン殿」と、オルベルタに連れられ、大公の間から下の会議室に向かうジタン。
その間にシドは玉座ごと下に移動し、会議室では突然現れたシドの姿に驚愕した。
…無論、リーズとフレイア以外だ。
「「「!!」」」
「便利ですねぇ~」
ほんわかしたリーズの声を振り払うかのようにシドはこほんと咳払いをする。
「皆、集まったみたいブリな」
その言葉に、きょろりと周囲を見渡すスタイナー。
「姫様とベアトリクス殿が見当たりませんな」
「さっき、自分の部屋にいるとかいってたけど…」
「じゃ、エーコが探してくるね!」とジタンの情報を得て、エーコはぱたぱたと走っていってしまった。
「あ! エーコ…。 ま、いいか」
「とりあえず話を始めるブリよ」
――――――
そんなダガーはというと。
いそいそと何かを鞄に入れたりしていた。
不安そうにベアトリクスは見つめている。
「本当に…宜しいのですか?」
「ええ。 もう決めたことです」
「そこまで思い詰める必要はありません。 私一人でもアレクサンドリアを復興するようにできます」
ダガーは鞄に入れる作業を止め、ベアトリクスを見つめる。
「確かにその通りです。 私一人では貴方のようにアレクサンドリアを復興させることもできない」
「いえ…ガーネット様のお力が足りないわけでは―」
「でも、私は…私なりの事をしたい」
そういうと、ダガーは窓の外を見つめた。
「民はとてつもなく早い冬を乗り越えなければなりません。 それを芯から支えるのは国家であり、王の役目だと思ってます」
ダガーはベアトリクスに振り向き、にこりと微笑んだ。
「クジャの狙いと探索はリーズさん達に任せます。 私達は第一にアレクサンドリア国を支えることに勤めましょう」
――――――
その頃、会議室では話が続いていた。
「…しかし街には季節はずれに等しい雪が大量に降り、交通手段もままならない。 壊滅とはいかないまでも…麻痺状態になってるであります」
「うむ。 だが、多くの無関係な命が無残に奪われなかっただけマシブリ」
「ようやく、我がリンドブルムも復興してきておりますが、絶望の底に叩き落された国民が復興の為に立ち上がるまでにはかなりの時間を要しました。 これらの例よりマシとはいえ、生きる希望を持つ為には並々ならぬ活力が必要となります」
スタイナーとシドとオルベルタの言葉を聞きながら、困った様子でリーズは溜息をする。
「申し訳ありませんねぇ。 こちらの我儘でこんな事になってしまって」
我儘だけで、こんなことになるのか? とそこにいたほぼ全員が頭の中で呟く。
「しっかし『氷樹の主』だっけか。 あんな奴が他の世界にいたなんてな」
「うん…まぁね…」
複雑な顔をしているフレイアに対し、リーズはのほほんと口を開く。
「先程も言いましたが、私達は他の世界から来ました。 まぁ私はフレアとただ鑑賞に来ただけなんですけどね」
「そういえば…そんなチケット、誰から貰ったの?」
「貰ったのではありません。 奪ったんです、タイムさんから」
堂々と話すリーズに対して、思わずフレイアは溜息をした。
「タイムさん…とは?」
「時を司る存在だよ。 重要な人で惑星間を飛んで、時空を繋げたり、修正したりしてるんだ」
「そんな奴からよくも奪い取ったもんだな」
「のんびり昼寝してチケットを捨てていた人が悪いのです」
悪魔のような微笑みをしているリーズに、ジタンは「そ、そうですか…」と言うしかなかった。
「しかし、あのクジャという男…。 ブルメシア、クレイラに続いてアレクサンドリアまでも…。 奴の目的は一体何なのじゃ?」
「ああ。 許せないのはクジャの野郎だぜ!」
「しかし、アイツの力を見ただろう? あの強大な力にどうやって立ち向かうつもりなんだ?」
「それはフレイアとリーズがばしーんとだな―」
倒してくれるよ、とでも言いたげな顔だったからか、フレイアはジタンの腕の皮膚をつねった。
「そんなことはもう出来ませんよ~。 あの一件でこの世界の主にどれだけの負担をかけたか…」
「主? この世界にもいるのか?」
「いなければ、私達のチカラでクジャ如きばしーんと倒せれましたけどね」
ふぅ、とリーズは周囲を見渡した。
「私達は主を守る、言わば守護神という存在です。 常に豊富な知識を持ち、他の世界をも守護できるように。 そして永遠にそれを出来るように不老不死の存在として主である神と契約を交わしているのです」
「世界はね、神の卵である中心核から創造されるんだよ。 そして中心核から神が…神獣が生まれたその瞬間に世界が出来上がる構成になっているんだ。 君たちのこの世界も同じ風にして生まれたんだよ」
「そして神獣はある時を境に、融合してくれるヒトを探し出し、融合する。 それこそが『星の民』と呼ばれる存在です」
さらさらと話される膨大な会話に呆然と全員は聞いていた。
一人だけ、ジタンは手を上げる。
「じゃあリヴァエラ神って奴も『星の民』っていうもんなのか?」
「いいえ。 もっと上を行く存在ですよ」
「今言ったのは世界が生まれたての事なんだけど、この世界も私達の世界ももっと遠い昔に出来上がったものなんだって」
「それらは強大な存在です。 指先一つで世界を自分の思うがままに操ることだってできます。 それらの事を『始祖神』と私達は呼んでいます」
「アレクサンドリアが大量の積雪に見舞われたのも…強大なチカラでそうなったわけか…」
そう言いながらもジタンはあの存在を思い出していた。
ヒトの形でありながらもヒトではない存在。
そんな、なんでもありな存在を目の前にして、良く命だけ無事でいられたものだ、と感心した。
「話を元に戻すとして、そのクジャなんじゃが…ワシはアレクサンドリアで信じられない光景を見たブリ!」
「一体何を見たっていうんだ?」
「『氷樹の主』が出現した直前に、ヒルダガルデ1号に乗って逃げたブリ! しかもヒルダガルデ1号には黒魔道士兵が乗っていたブリよ! それもただの黒魔道士兵じゃないブリ! 普通に喋っていたブリよ!」
その報告に酷く驚愕していたのはビビだった。
「…そ…そんな!!」
「まさか、黒魔道士の村の…おっさん、本当なんだろうな?」
「この目ではっきり見たブリ! 間違いないブリ!!」
「そんなの…信じられるわけないよ!!」
焦燥しきっているビビ。
そんな時、そこにエーコが飛び込んできた。
様子を見ているとなにやら騒ぎながら慌てている。
「大変! 大変! たいへ~ん!」
「エーコ…何を騒いでいるんだ?」
「ダガーが…ダガーが…」
「…!? ダガーがどうかしたのか?」
冷静な口調でエーコに話しかけるが、相当急いでいるのか、慌てふためている。
「とっ…とにかく早く来て! ダガーは客室にいるわ」
「あ、おい! エーコ! 俺、ちょっと様子を見てくる!」
「じ、自分も行くであります!」
「私も様子ぐらいは見に行きますか…」
4人、ぱたぱたと会議室を後にする様子を見て、シドは「会議は一時中断したほうがよさそうブリな」と文臣に話しかける。
「そうですな…。 皆さん、ここは一時解散としましょう。 後で使いの者を立てますので」
「ダガー!!」
ばたんと物凄い勢いで、ダガーがいた部屋の扉が開く。
急いで入ってくる4人をダガーとベアトリクスはぽかんとした顔で見ていた。
「どうしたの? ジタン」
「どうしたもこうしたもねぇよ!」
ふと、ジタンは足元を見る。そして部屋の様子を見た。
なにやら整理されているように見える。
それらが表すのは…。
「…ダガー…、何処に行くつもりなの?」
「帰るの」
「帰る!? 帰るって…」
「もちろんアレクサンドリアよ。 ね、ベアトリクス」
「その通りでございます」
「帰ってどうするつもりなんだよ! あんな状態じゃ…」
「分かってる。 でも私はもう決断したのよ」
そう言いながら、ダガーはちらりとリーズを見る。
リーズはにこやかに微笑んでいた。
「わ…私を置いてで…ございますか、姫様…」
「スタイナーはジタン達についていって欲しいの」
「私では力不足でございますか!」
「そうではないわ。 確かにアレクサンドリア国の最強男女兵士がいると心強いけど。 でも、これからジタン達はクジャを追わなければならない。 その時にクジャは最高峰の罠を仕掛けてくるかもしれない」
ダガーはじっ、とスタイナーを見つめる。
「皆もいるし大丈夫だとは思うの。 でも…なにか保険が欲しいと思っている」
「…姫様…」
呆然としているスタイナーを見ながら、旅支度を済ませてダガーとベアトリクスは後にする。
「ダガー…」
「大丈夫。 アレクサンドリアが落ち着いたら、また皆と合流するから。 それまで皆を宜しくね、ジタン」
――――――
その頃、クジャはヒルダガルデ1号に乗って自らの拠点としている場所に戻っていた。
「くっ、危うく殺されるところだったよ…」
ぽつりとクジャは呟き、苦笑する。
「殺される? 馬鹿な話だ。 そんな事がある訳がない」
そんな壮大な独り言を言っている時に、クジャに取り入った双子がやってきた。
「どうしたでおじゃるか?」
「酷い怪我でごじゃる!」
「うるさい! …アレクサンダーがダメなら、その代わりになるものを手に入れるまでの事」
そう。クジャははっきりとこの目で見ていた。
破戒光線で腐ったアレクサンダーの亡骸の上に佇む氷結晶。
今なら夏真っ盛りの暖かい季節を一変させた、あの強大なチカラ。
死にそうになるほどの身震いをあのときに感じた。
あれさえ手に入れれば“アイツ”など…。
そう思いながら後ろからついてきた黒魔道士を呼んだ。
「234号です…」
「お前の番号など聞いていない! あの計画の準備はもちろん出来ているんだろうね?」
恐怖の笑みをしている愚者に黒魔道士は少々身震いしながらこくりと頷いた。
「まあ、当然だね」
そう言い、クジャは微笑する。
計画は始まった。もう誰にも止められやしない。
“アイツ”にも…そして手に入れそこなったあの二匹すら…。
「まだまだ彼らには踊ってもらわないと困るんだよ…。 僕はしばらく体を休めるが、手を抜くんじゃないぞ!」
――――――
「って事は、おっさんのブリ虫の姿は、怒った嫁さんにかけられた魔法の所為だったのか!?」
大公の間に響き渡るジタンの声。
ダガーが自国に帰って翌日。話があるとシド大公に言付けされ、ジタンとリーズとスタイナーは向かったのだが。
「…格好悪い話ブリが、ワシのスケベ心からこんな羽目に…」
「それはブリ虫さんの自業自得と言わざるをえないですね」
「しかし、何故ヒルダガルデ1号がクジャの手に渡ったのでありますか?」
「問題はそこブリ!」と、先程までスケベ心で反省していたブリ虫はビシッと手をあげる。
「きっとクジャが自分の野望の為にヒルダごと飛空艇を奪ったに違いないブリ! 何とかして奴から飛行艇とヒルダを奪い返して欲しいブリ!」
その言葉にリーズは溜息をつく。
「一国の王ともあろう人が情けない話ですよねぇ…。 まぁなんとかしないといけませんが」
「でも、相手は飛空艇だぜ? 何処に行ったかも分からないし、追いかけることも難しいんじゃね?」
「2号機も結構無理してしまったからのう…。 この身体では新たな飛空挺の建造の指示もおろか、メンテナンスすら難しいブリ。 何とかして人間の姿に戻りたいブリが…戻す方法はヒルダしか知らないブリ」
その言葉で、知識の守護神に全員の目がいった。
その視線に困った顔で「あらあら」とリーズは言い、苦笑する。
「私では治療不可能ですよ。 本来、呪いというのは呪術者と呪者の間に接点がある場合に使用するもので、無関係で尚且つ術者と呪者の事を何も知らない第三者が呪いを解くことは出来ないんです。 もし、解いて欲しいのなら夫婦共々洗いざらし…あんなことやこんなことも聞かざるを得ませんが…」
あんなことやこんなこと、という言葉を聞いてシド大公は「いや…やめておくブリ…」と小さく言った。
「オルベルタ、何か良い知恵はないブリか?」
「はい。 左様な事もあろうかと、ドクトル・トット殿をお呼びしております。 まもなくお着きになるかと…」
「お待たせいたしましたかな?」
丁度のところで来たのか、トットはのんびりとした口調で言った。
「これはこれはトット殿。 ご多忙にも関わらずご足労頂き…」
「いやいや。 お気になさらないで下され。 先日の事件も噂には聞き及んでおりますが、それにしてもよくぞご無事でおられた」
「それで、トット殿…。 お呼びした件で御座いますが…」
――――――
リンドブルムの港である水竜の門ではある小さな小さな事件が勃発していた。
それは海から流れ着いている漂流物から始まる。
見張り役の兵士とさぼっている兵士はうんざりした顔でそれを見ていた。
「おいおい…こりゃ、やばいんじゃね?」
「ああ。 もう死んでいるのかもな…。 それにしても、何なんだよこれは」
刹那、後ろから二人の兵士の隊長が「仕事さぼって何をしておる!」と、声をかけてきた。
「た…隊長殿! そ…それが、変なモノが漂着したのですが…」
「どれどれ、俺に見せてみろ。 こう見えても、昔は海の男だったんだぜ。 水の事故の対処法には自信があるんだ」
じっ、と隊長はその漂流物を見つめた。
だが、全くもってそれはぴくりともしない。
隊長は部下に向かって話しかける。
「…こりゃあ、死んでるな…。 おい、医者を呼んで来い。 死亡を確認してもらわないとな」
刹那。その言葉に反応したのか、漂流物はむくりと突然起き上がった。
それを偶発的に見ていた部下達は慌ててその場を去っていく。
その哀れな姿を、素早い対応だと勘違いした隊長はうんうんと頷いていた。
「珍しく素早い行動じゃないか。 俺もいよいよ貫禄がついてきたかな」
そう言い、振り返る。
先程まで死んでいたと思っていたモノが起き上がって色々と動いている。
しかも頭に海藻類が沢山ついていたからか、大分不気味に見えたのか、隊長も悲鳴をあげて逃げていってしまった。
漂流物は何故皆逃げてしまったのか分からないまま、呆然としていた。
そして自身のお腹が盛大に鳴っている音を聞き、「腹減ったアル」と呟いた。
―――――
そんな小さな事件が起こっていることも露知らず。大公の間ではトットの診断が続いていた。
「トット殿。 どうブリ? 元に戻す方法はあるブリか?」
「…リーズ殿が言う通り、魔法で姿を変えられた場合は、その魔法をかけた本人でないと元に戻せぬのですが…」
その言葉にジタンはがっくしと肩を落とす。
「ただ、かなり昔に読んだ書物に、呪いによって姿を変えられてしまった人間を元に戻す方法が書いてあったと記憶しております」
一つの希望のようなものが見えたブリ虫の大公は「おお、それは本当ブリか!?」と、興奮気味である。
逆にリーズはその言葉を聞き、ただただ苦笑していた。
「まぁ…書いてあったのは確かなのですが、面白おかしく書いている書物でしたので、あまり信用できるものでは…」
「そう面白おかしく書いてあるのであれば、命に別状はないですよね?」
リーズの問いに対し、トットはこくりと頷いた。
「はい。 3つの薬品を調合したものを直接身体にかけるだけですので、失敗したとしても何も起こらないと思われます」
「おっさんが死なないなら、何でも良いさ!」
ジタンの滅茶苦茶な意見にシドはげんなりした。
「…他人事だと思って滅茶苦茶な事を言うブリな…」
「その3つの薬って…水酸化カリウム・塩酸・酵母のことじゃないですよね?」
「おお、リーズ殿の言うとおりですぞ。 それを5:2:3の比率で混ぜるのです」
「それらは昔に術者が良く使っていたものですな。 どれも特に珍しい薬品ではないようですが?」
「私もそれが気になっておりましてな…。 ただ、今では殆ど使われなくなった薬だけに、現在入手できるかどうか…」
「確か、水酸化カリウムっていうやつはシナが持っていたような気がするな…。 とりあえず町に行って探してくるぜ!」
ジタンはそう言い、町に出かけていった。
「しかし、リーズ殿もあの本をお読みになられているとは…」
「いえ。 昔、錬金術に興味を持って調べつくしてみただけです。 でもあの本…」
その本の様々な内容を思い出したのか、苦笑するリーズ。
「あんまり良い評価は出来ませんでしたので、すぐにゴミ箱に捨ててしまったんですけどねぇ…」
―――――
10分後。
ジタンは1つのビンを持ちながら「待たせたな!」と言い、戻ってきた。
「3つの薬はこの瓶の中にいわれた通りの比率で入れてあるぜ!」
ドクトル・トットはその瓶を丁寧に受け取り、シド大公に対して「では早速試して見ましょうかな」と言った。
「う、うむ。 ひと思いにやってくれブリ!」と、何故か緊張している大公。
「別に殺そうって訳ではないんですけどね」
5人が見守る中、シド大公はキラキラした液体を振り被る。
突如としてシド大公は光に包まれた。
そして、そこから出てきたのは…。
「どうじゃ。 元に戻れたケロ?」
呆然と見つめる5人。
5人の様子を見て、それは、「…ん? 何か様子がおかしいケロ?」と疑問符を出している。
「やっぱりダメでしたね」
リーズはそう言い、それに対し鏡を差し出してみる。
それはそれの姿を見て、目を真ん丸くさせた。
「カ…カエルだケロォォォ!!」
驚愕と怒りがこもった悲鳴は大公の間に響く。
「な…なんとした事か! 今度はカエルのお姿になられたとは!!」
カエルの姿をした大公はぎりっと口を噛み締め(ている風に見える)、「ええい! このままでは埒が開かん!」と叫んだ。
「こうなったら意地でもヒルダを探しに行くのじゃ! ワシも連れて行け! 全員会議室に集めるケロ!」
怒りと悔しさに爆発するカエルの王様に対し、5人は溜息をつくばかりだった。
―――――
再び会議室に収集された全員はブリ虫からカエルになったシド大公に驚愕した。
「何と! 今度はカエルのお姿に!?」
「何とかして人間に戻ろうとしたが、失敗してしまったケロ…」
「まぁ、ネタみたいな本ですから、失敗しても仕方ないものですよ」
リーズは苦笑しながら言った。
それを無視して、カエルの王様は握りこぶしを作った(ように見える)。
「…とにかく! 今、全ての鍵を握っているのはクジャだケロ! 何とかしてクジャを探すのじゃ!!」
「しかし、飛空艇はメンテナンス中ですぞ?」
「空がダメなら海しかないケロ! オルベルタ! ゼボルトにあの船の整備をさせておくケロ!」
シドの命令に文臣は応じ、会議室から素早く出て行った。
「で、一体何処へ行くつもりなんだ?」
「そうなんじゃケロ。 それが問題じゃケロ」
その問題に対し、手を上げたのはビビだった。
「昨日、普通に喋る黒魔道士達が飛空艇に乗ってたって言ってたよね?」
ビビの問いに、こくりとリーズは頷き、「その黒魔道士の村へ行けば何か分かるかもしれませんね」と言った。
「それに、僕は自分の目で確かめたいんだ! 本当に皆がクジャに手を貸すような事をしているのか…本当の事を知りたい!」
「そうだな。 ここは手がかりを得る為にも黒魔道士の村に行くのが得策だな」
「うむ! それでは船に乗って黒魔道士の村に向かうケロ!」
―――――
船の名はブルーナシアスという名前らしい。
きっちり整備されている船体にジタンは感心していた。
そこに海藻まみれになっているク族が「待っていたアルよ!」とジタンに話しかけてきた。
「ん? クイナじゃないか! どうしたんだ?」
「ワタシ、ジタン達待っていたアルよ! 皆に会う為に旅を続けたアルよ!」
マダイン=サリ以降の久しぶりの再会にクイナは泣きじゃくっている。
「山を越え、海を越え、地下水脈までも流れ流れて此処まで来たアル」
ある意味恐ろしい執念のクイナに対し、ジタンは「そ…そりゃ、また大変な旅だったな…」とたじろいた。
ブランクは溜息をついて「変な奴もいたもんだな…」と言った。
「ん、ブランクは一体なんでまた船に乗ってるんだ?」
その言葉にブランクは頭を掻きながら「ちと、頼まれちまったもんでな…」と言った。
「ワシじゃケロ!」
急にシド大公はジタンの懐から飛び出して叫んだ。
珍しいカエルにクイナは驚愕しているようで、目を白黒させている。
「お主達が船を離れて行動する間、ただ船を置いておく訳にも行かないケロ!」
「ま、それにお前等には借りがあるからな…。 特にそこの緑色の女性には」
「借りだなんて…。 あれはフレアの暴走のお陰ですよ」
困った顔をしているリーズだが、まんざらでもない様子で微笑んでいる。
「それでは出発ケロ!」
「あんまり何でもかんでも張り切るなよ。 まだカエルなんだから…」
「心配は無用ケロ!」
張り切ってケロケロ言っているカエルの王様に対し、クイナは「食べられるアルか…?」と呟いている。
そんなクイナの様子を見て、苦笑しながらリーズは「食べても美味しくないですし、お腹を何ヶ月も壊す羽目になりますよ?」と親切に助言をした。