私の近くで泣いている少女がいた。
その子はボロボロの姿だった。
一際輝いていたのは、緑の髪と瞳。そして胸にまるで「押し込まれた」ような黒い結晶体だった。
すぐさま、私はその子が「リーズさん」だと直感した。
声をかけようとした途端。
「どうしたのですか?」
綺麗な風のような声で、少女に話しかけてきた人がいた。
金色の瞳と長い髪をきらりと光らせて、白いローブを着た男か女か分からない人。
「私、また捨てられちゃう・・・。あの時のように「化け物」って言われて捨てられる」
「いいえ、貴方は「化け物」ではありません。それに貴方は最善を尽くしました」
「分かってる。分かってるけど・・・」
その人はふと振り返り、突然私を直視してきた。
『お前はここに二度と来ないと誓えるか?』
低いテノールのような声が私の頭の中に響いた。
『お前と私とは縁が深い関係だ。だが心までお前を許したわけではない』
恐い、この人は恐い。
『そして、お前は自分の「チカラ」を無差別に解放しすぎた。その罰として、二度と私たちの目の前に現れるな』
眩い光が差し込んできた。
低いテノールの声は最後に強烈なメッセージを残した。
『消えろ』
― ― ― ― ― ―
「ん・・・」
森林みたいな場所で、私は目覚めた。
「お、気づいたか?」
「大丈夫?お姉ちゃん」
ひょこっと顔を出してきたのは懐かしい顔だった。
「ジタン・・・ビビ・・・なんで・・・」
何故ジタンとビビがここにいるのか分からなかった。
「皆は・・どうしたの?」
「俺たちとリーズは無事だ。でも、おっさんとフライヤと・・・ベアトリクスは-」
私はジタンの服をぎゅっと強く掴んだ。
「最初から話して・・!!」
------
「そう・・・そんなことがあったのね・・」
私が眠っている間に、いろんなことがあったらしい。
ブルメシアの滅亡、クレイラの破壊、召喚獣の存在、お母様の裏切り、それに対するスタイナー達の抵抗・・・。
「なんで、私は眠っていたのかしら・・・。皆、皆必死だったっていうのに」
そして・・・あの夢。
『そして、お前は自分の「チカラ」を無差別に解放しすぎた』
おそらくあれはリーズさんの中にいる「バッシュ」なのだろう。
「ずいぶん遠くまで来ちまったから、皆の所存や生きているかさえ、わからない。
でもタンタラスもフォローしてくれてるし、大丈夫さ!」
苦笑してジタンは話し続ける。
私を励ますかのように。
「とっくに脱出して今頃トレノでオレ達の事捜しているかもしれないぜ?」
「だったら、リンドブルムで飛空艇を借りられないかしら?南ゲートまで行ければトレノはすぐだわ。ここはリンドブルム城の近くにあるピナックルロックスだし、結構近いの」
「果たして、それまでその「チカラ」の暴走は止めれるかの・・?」
老人のような声が聞こえた。
私を含めて全員振り返る。
色でいうと「黄色」のような老人だ。
「我が名はラムウ」
「・・・!!まさか・・・貴方は雷帝ラムウ・・・ですね?召喚魔法に関する文献で貴方の名前を見ました」
「そなたの無差別なる「召喚魔法」により、クレイラは消滅寸前にされた。消滅まで至らなかったのは世界を守ろうとした獣のお陰ともいえるであろうがな」
「それは・・・フレアのことか?フレアは無事なのかっ!爺さん」
「あの衝撃だ。無事ではあるまい・・・。それに獣にとっては環境が悪すぎじゃ」
「フレア・・・」
一番心配していたのはビビだった。
ビビは悲哀の瞳でラムウを見つめていた。
「だが、あれはダガーが詠唱したわけじゃないだろう?」
「確かに、あれは第三者が発したもの。だが、我が問いはひとつ。そなたはどうするのだ?このまま「チカラ」を解放されたままだと第ニ第三と被害が広がるばかりじゃ」
「私は・・・」
ぎゅっと首からかけっ放しだった赤の宝玉を握り締めた。
「このチカラをコントロールしたい!!」
「再び過ちを起こすつもりか?」
「私、この「チカラ」・・・召喚魔法が怖かった。でも、もう逃げません!」
「・・・ならば、条件はただ一つ」
ラムウの瞳が鈍く光った。
「我と戦い、勝ってみせろ!!」
「って、ダガーには無理だって!俺も戦うぜ!」
「僕も!」
守ろうとする二人の少年達。
「ジタン、ビビ。ありがとう。でも・・・私は決意したんです」
このチカラを絶対にコントロールしてみせる。
そして・・・リーズさんとバッシュさんに認めさせてみせる。
「雷帝ラムウ、特訓の程よろしくお願いいたします!」
------
ダガーのやる気とは裏腹に、やはりその「強大な力」は持て余される事は無く。
今日で3日が経った。
「はぁ・・・」
がくりと魔力の制御に疲れ果て、ダガーは膝を落とした。
「・・・まだまだじゃな」
ラムウは溜息をついた。
分かっている。分かっているんだけれど・・・。
どうすればこの魔力は制御できるのか。
そして。
ちらりとダガーはリーズが寝ているほうへと顔を向けた。
(私の所為。私の所為で・・・バッシュさんを怒らせたんだ)
そう考えた刹那。一気に体の力が無くなり、その場にばたりと倒れてしまった。
「おい!ダガー!!しっかりしろ!」
ジタンの不安そうな声だけを聞いて、意識がなくなった。
― ― ― ― ―
ふと私は目を開けてみた。
あの時見た、小さなボロボロのリーズさんが不安そうに私のほうを向いてきた。
「リーズ・・・さん?」
ぎゅっと小さな手でリーズさんは私の手を握ってくる。
後ろには、酷く私を睨みつけるバッシュさんがいた。
「私の・・・私の所為で・・・バッシュさんは・・・リーズさんは・・・」
リーズさんは左右に首を振った。
「もういい。もういいから・・・」
「良くない」
しっかりと言ってきたのはバッシュさんだった。
「お前の所為で、私たちは滅茶苦茶になった。あの時と同じ事を言う。消えろ」
「だめ!バッシュ!!」
バッシュさんに向かってリーズさんは叫んだ。
「だって・・・だってダガーは・・・」
その言葉の後が聞こえ辛く、急激に襲ってきた眠気に負け、奥深くへと眠りについた。
「ダガーは、私と・・・―」
― ― ― ― ―
しばらく眠りについていた私は、朝早く水辺へと来た。
不安と自分を責めている私の顔は何故だかげっそりとしていた。
リーズさん、バッシュさん。
ごめんなさい。
全て、こんな私の所為です。
もうどうすればいいのか分かりません。
もう・・・死にたい。
【それは駄目・・】
清らかな声。
私はあたりをきょろきょろとした。
【貴方は・・・私たちを忘れてしまったけれど・・・それでも大丈夫】
きらきらとした結晶が集まっていく。
それは「氷」。
冷たい冷気があたりを包み込んでいく。
それは形つくられ、やっと声の正体が分かった。
美しい・・・女性がそこに立っていた。
「誰・・・。貴方は・・・誰・・!?」
【思い出してください・・・主】
主・・・?
頭がずきずきする。
恐い。怖い・・・!!
【貴方はもう大丈夫です。さあ、思い出してください】
・・・・・・・・頭が痛い・・・。
・・・角・・・。
・・・・・竜・・・火の子・・・。
・・私・・・可愛い不思議な・・・アトモス・・・。
バハムート・・・氷の・・子・・・。
・・・イフリート・・・。
氷の子・・・シヴァ。
思い出した。
「シ・・・シヴァ・・・?」
にこりと微笑んだシヴァ。
そしてそっと私の手になにかを渡してくれた。
【もう大丈夫です。私の召喚で貴方の力は制御されるでしょう】
そう言い、シヴァは氷の粒をきらきらさせ、消えていった。
私の手に握られていたのは「青のオパール」。
私はそれをそっと握って呟いた。
「・・・シヴァ・・・ごめんなさい・・・ありがとう・・・」
------
『ダイヤモンドダスト!!』
「お・・・お早う、ダガー・・・って わっ」
未だにおきたばかりのジタンは突如自分が氷漬けにされそうになり、なんとか避けた。
「あ・・・危ないなぁ!」
「あ、ジタンお早う」
昨日とは裏腹のしっかりとした口調のダガーを見て「う・・うん。お早う」とつい言ってしまい。
自分が危険だったっていうのにそれを指摘しない哀れなジタンであった。
------
ぴくり、と少女のエルフの耳が動く。
「精霊の声が、聞こえたのか。フレイア」
冷静な声がその場に広がった。
声の主は白い髪をしていた。瞳は人は睨みつけられたら凍えるほど震え上がる灼熱の赤。
しかし、フレイアはその瞳はとても優しいオーラに包まれていることを知っている。
「うん・・・。でも。もしかするとお姉ちゃんかも知れない」
「確かに。フレアがこの世界に来ているということはオメガを通じて分かっている、が」
不安がよぎる。
「・・・何事もなければいいが・・・」
星の民一族 氷獣を司る「シガン=リヴァイス」はこの世界で何かが起こるような気がしてならなかった。
自分のチカラでは出来ない事でもないが・・・。
― ― ― ― ― ―
ふむ、と雷帝は静かに言った。
「・・・確かにそのチカラ、安定したな。分かった。我のチカラもそなたに預けよう」
ふわりと雷帝ラムウは浮かび空に散っていった。
・・・空からきらりとしたものが舞い降りてくる。
「黄のペリドット・・・ラムウ、ありがとう」
------
朝の日差しが眩く輝いた。
「ん・・・」
リーズは眠たそうにのっそりと起き上がる。
そして一つ溜息。
(全く・・・。バッシュったら・・・なかなか言うこと聞きませんね・・・)
とはいえ彼女も【神獣】の一種。
少し怒りっぽく心配性なのは分かる、が。
(仕方ないとはいえ・・・「大嫌い!!」って言ってしまったのはまずかったのでしょうかねぇ・・)
「リーズさん、起きてたんですか」
溜息をついているリーズを見つめているダガー。
「あら・・・」
ダガーを見てすぐさま分かった。
あの暴走さえしているチカラが、すっかり無くなっている。
「チカラの制御・・・うまくいったんですね?」
「ええ」
こくり、とダガーは頷く。
「バッシュさん・・・まだ怒ってますか?」
リーズは首を横に振った。
「・・・逆にひっこんでしまいまして」
「またなんで・・・」
「いえ、大した事無いんですけどね」
「もしかして・・・私の所為ですか?」
「違いますよ。ただ・・・」
自分が言った言葉はそれ程重かったのだろうか。
そう思いつつ溜息をつきつつ言った。
「さすがにごちゃごちゃうるさかったもので、つい「バッシュなんて大嫌いっ!!」っていってしまいましてね」
------
「にしても、久しぶりに戻ってきた感じだな~」
夜空が光り、一つの大きな城が浮かび上がっている。
そう。
ジタンたちはついにリンドブルムへと戻ってきたのだ。
「ホント。ここまで来るのが長かったわ・・・」
はぁ、とほぼ眠っていたと思われるダガーは言う。
だが、王女としては本当に長い長い冒険だった筈だ。
「ですね・・・。後はフレアの居場所が分かれば・・・」
クレイラを瀕死状態ながらも守り抜いたフレア。
相棒であるリーズは彼女の行方が分からずにいた。
あれだけの衝撃、そして解放されたチカラだ。
アースの優秀な【ガーディアンフォース】だからとて無事であるはずが無い。
「それとおっさんたちが無事に生存してるか、だな」
アレクサンドリアに残ったスタイナー、フライヤ。
そしてブラネを裏切った、ベアトリクス。
彼らも強いが、無事であるとは考えにくい。
4人とも仲間の無事を祈っていた。
そして何事も起きないことを・・・。
だが。
その祈りは通じなかった。
「ジタン、あれ・・・!」
驚きつつもしっかりと「あれ」に指を指すビビ。
それを見たジタンたちは驚愕する。
「レッドローズ!?」
目の前での惨劇は恐ろしいものだった。
主砲が火を噴き、あのガラクタのような面白い町を粉々に、そして赤く染めていく。
その間にレッドローズは鈍い光を放つ。
「あの光はテレポット!?城内に直接、黒魔道士達を送り込んでるんだ!!」
「そんな・・・」
がくりと膝を落とすダガー。
そして大きな召喚獣が現れた。
口が大きく全てのものを飲み込んでいく。
黒魔道士達も、生きている両国の兵士でさえ・・・。
ダガーの耳に微かに『苦しい』という声が囁いた。
(・・・アトモス・・・。ごめんね。ごめんなさい・・・)
ぽたりと涙が落ちた手のひら。
その手のひらには、悲しみと共に棄てられた紫色の「アメジスト」が乗っていた。
------
リーズが目の前のリンドブルムの惨劇を見て呟く。
「静か・・・ですね」
あんなに盛んで、明るい町が 一瞬にして、しかも自分達の目の前で無くなろうとは・・・。
「何て酷い事を・・・。リンドブルムにまで手を出すなんて・・・。しかも私の力も使って・・・」
そう言い、ダガーはちらりとリーズを見た。
「大丈夫ですよ。これは貴方の所為ではありません。貴方の力を利用した方がいけないのですから・・・」
「おいおい。気を抜くなよ、奴らまだいるかもしれないからな。ビビ、お前はこの辺に隠れてろ」
ジタンのその言葉にビビはびくりと震え上がる。
「えっ! 怖いよ、ボクそんなの嫌だよ!」
「アレクサンドリア兵がここにいるんだ。黒魔道士のお前がうろちょろしちゃまずいだろ?」
「う・・・うん。でも―」
「そんなにビビるなよ、すぐ戻ってくるからさ」
「ごめんなさい、ビビ。しっかりと隠れて待っていて下さいね?」
ビビの瞳を見て、リーズはにこりと微笑んだ。
「うん、分かった。でも本当にすぐ戻ってきてね!」
------
「にしても、奥にいくほど被害が大きくなっていくな」
「ですね・・・。それに、住民達の黒魔道士に対しての殺意が予想以上に強大です」
「ビビを連れて来なくて良かった・・・。連れて来てたら・・・恐らく彼らに」
三人とも、町の被害に対して呟きつつも城の方向へと歩いていく。
やっと町の中心街に出た時、ダガーにとっては懐かしい声が聞こえた。
「工場区は完全に破壊、商業区、劇場街も酷い状態です!!」
「兵員を復興作業に回そう。一日も早く民の暮らしを取り戻すのが先決だ」
「わかりました」
「オルベルタ様!」
文臣オルベルタはダガーの声に対して、後ろに振り向く。
「ガーネット姫、ジタン殿!それに、リーズ殿! よくぞご無事で」
「シドおじ様は・・・?大公殿下は無事なの!?」
「ご安心くだされ、城は攻撃を免れたのです。大公殿下は怪我ひとつしておられませんぞ」
ほっ、としたのか ダガーは安堵の溜息をつき「良かった・・・」と呟いた。
「さあ、殿下の元へご案内いたしましょう」
リンドブルム城は少し煤に汚れているものの、全壊はしなかったようで、きちんとそこに建っていた。
「ガーネット姫がお戻りになりましたぞ!」
「おお、ガーネット姫、無事であったか!ブラネに捕まったかと心配してたブリ!」
「ジタン達が助けてくれました」
「礼を言うブリ、ジタン。そしてリーズよ」
「でも・・・。わたし達を城から逃がすためにフライヤさん、スタイナーとベアトリクスが城に残る事になってしまったらしく・・・」
「ほう、音に聞こえたあのベアトリクスが、あの者が一緒ならきっと皆、無事だろうブリ」
「オレもそうと思うぜ、ダガー。城をちょっと離れるだけのつもりがピナックルロックスまで出て来ちまったけどさ。あいつらに限って、滅多な事ではやられないって!アレクサンドリアの2強と強い竜騎士が残ってるんだ!」
「ピナックル・・・。おお! ガルガントか?」
「ああ・・・。まぁ、脱出する時はリ-」
自分の名前を出されるといけないと思い、ジタンの軽い口を押さえるリーズ。
代わりに「詳しいですね・・・」とリーズは言った。
「こう見えても一国を預かる立場。周辺の情報収集は怠っておらんブリよ。だが、如何に情報を集めようともそれを使う者が愚かではどうしようもないブリ。
事前の調べでブラネ女王が召喚獣の力を手に入れようとしていた事はわかっていたブリよ。
・・・しかしワシは召喚獣の力を侮っておったブリ。あれほど凄まじいものとは思いもよらなかったブリ。ワシがこのような姿なのは道理というものかもしれんブリ」
「でも降伏したのは正しかったと思うぜ。抵抗した挙げ句、クレイラは消える寸前までいったんだからな・・・」
「そうです。そういえば、お聞きしたいことがありますが、召喚獣に対峙した獣が何処に行ったのか・・・分かりますか?」
「情報によれば、リンドブルム近辺の沼地へと姿を消えたらしいブリ」
「・・・そうですか。貴重な情報、ありがとうございます」
「おい、まだ動いている黒魔道士兵がいたぞー!」
「あ~? 何だ? こいつ他の奴より小さいな!?」
後ろからざわざわと兵士が騒ぐ。
「痛いよ、放してよ。ボクは違うんだってば・・・」
「!! あの声はまさか・・・」
そこに連れてこられたのは、黒魔道士兵と間違えられたビビだった。
「住民に暴行を受けていた黒魔道士兵を保護しました!」
「違うよぅ。ただ、お腹空いていただけで・・・」
「下がってよい、ビビ殿は黒魔道士兵ではない。黒魔道士の格好をしているが・・・それは敵を欺くため、味方である」
「そ、そうでありましたか。これは大変失礼しました!」
すぐさま解放され、ほっ と溜息をつくビビ。
「話を戻すブリ。ブラネ女王に関する情報は召喚獣だけではないブリ。この一連の戦争の裏にクジャと名乗る謎の武器商人が絡んでいるブリ。クジャは高度な魔法技術を用いた装置や兵器をブラネに供給しているブリ。黒魔道士兵もその一つブリ」
「高度な魔法技術」。
その言葉にリーズはふと疑問を一人で抱き始めていた。
「トレノでクジャを見かけたという者の話によれば、クジャは北の空より銀色の竜に乗って現れるそうです」
「北の空・・・?北にも人が住んでいるんですか?」
「世界には、まだ未開の大陸がいくつもあるんだ。
北の空、通称『外側の大陸』って言うんだけど、この霧の大陸の北にある未知の大陸の事さ」
「外側の大陸に魔法を操る種族がいるのかはわからんが、ブラネに武器を供給しているのはクジャひとりのようブリ」
「わたしが城で見た人物も、多分そのクジャと名乗る者。その人がお母様をたぶらかせているのかもしれません!」
クジャに催眠をあっさりかけられ、プラスアルファで自分が大切に閉じ込めてあった力を無防備に解放させた・・・。
だから・・・「じゃあ、クジャを倒しちまえば!」「きっと、クジャさえいなくなれば・・・」
「そう、ふたりとも理解が早いブリ。クジャを倒せば、武器が供給されなくなり、ブラネの力は弱まる。その時が反撃の好機ブリ!!」
「今正面からブラネに挑んでもまた多くの命を失うだけ。勝ち目はありませんから」
「諸悪の根元を潰すって事か」
「そうです、たとえブラネを倒せたとしても・・・いずれクジャは新しい取引相手を見つけるでしょう」
「母が犯した罪は重い・・・。でもその陰でクジャが動いていたのなら、わたしはクジャを許せない! 私、クジャを捜します!」
「如何せん、ワシはこの通り動きが取れん。民を守るため、兵を割く訳にはいかんブリ。それに残念だが、飛空艇の動力となる霧はこの霧の大陸にしか存在しないブリ。だから、飛空艇で海を越える事は出来ないブリよ」
「それに、ブラネに全ての交通を強制的に停止されているだろうからな・・・」
「どうにか、その大陸に行く手段はありますか?」
「唯一つある。リーズ殿に言った「獣が消えた場所」と同じ沼地にかつての採掘場があるブリ。その採掘場付近にはこの大陸に生息しないはずの魔物が現れるブリ。採掘中に見つかった大きな空洞を突き進むと海をくぐって別の大陸に出る・・・。
という「噂」があるブリ・・・」
「噂かよ・・・。雲を掴むような話だな。本当にそこからいけるのか?」
「保証は無いブリ・・」
「行ってみなきゃわからねえって事か・・・。まあ、わからねえ方が楽しみが増えるな!」
「ガーネット姫を頼んだぞ、我々も反撃の準備をしておくブリ」
「そういえば、ビビも来るのか?」
こくりと小さな黒魔道士は頷いた。
「ボクも行ってみたい・・・。この大陸には、もういられないから」
「では、私もそこまで一緒ということですね。よろしくお願いします」
『外側の世界』・・・。
そこには一体何が待ち受けているのだろうか?出会い?別れ? ・・・それとも。
「悪くないよ?砂の中に隠れた砂ネズミ共とあの醜い象女さえ視界に入らなければ・・ね。僕の美意識を今にも破壊しそうだよ、奴らの存在は」
相当な値打ちがありそうなソファーにもたれこむ銀色の髪の青年・・クジャ。
「次はその砂ネズミ狩りさ・・。もう少しこの美しいトレノで 奴らの臭いを落としたいところだけど・・。あの象女に『早く憎きネズミを倒しておくれ』って言われたんだよねぇ。全く。僕を何だと思ってるんだか」
ぶつぶつと文句を言う、クジャ。
その後に言う言葉を分かっているのかオークショニアは。
「それではクレイラに向けて例のものを準備いたします」
「ああ、頼むよ・・・」
ところで・・ とクジャの中で ふとよぎるダガーの姿。
「見たかい? 今日は可愛いお客さんがいたね?」
「可愛いお客様・・ですか?どなたかお気に召された御婦人でも?」
「ああ、とてもお気に召したね・・。 追いかけていた小鳥が 自分の方から飛び込んできたのだから・・」
・・?? 追いかけていた小鳥?
疑問に疑問を重ねているオークショニアなんて気にも留めず、自分の言葉に酔いしれながらクジャは言う。
「まさかこんなところでキミに会えるとはねぇ・・。さすがに今日ばかりはこの僕も運命ってモノを信じようって気になったよ。でも今はまだキミの羽根を休める時ではないよ?そう。キミの帰るべき巣はここじゃないんだ・・・。
キミのママが待っているお城に帰るんだ。そうしたら僕も・・」
それは、天子の笑みではない。
そう。それは憎い憎い・・。
「優しく迎えてあげるよ」
悪魔の微笑み。
------
ガルガン・ルー。
古のアレクサンドリアとトレノを結んだ機関。
ガルガントというガルガン草が大好きな大蜘蛛に乗り、がたがたと道なき道を駆けていく。
しかし、それも時が過ぎれば終わりが来る。
「着いたっスね」
「ちょっとガルガントも疲れちゃったみたいね」
ダガーは必死にガルガン草を食べているガルガントを見つめ、そう言った。
「しかしアレクサンドリアにこのような場所があるとは・・。全く知らなかったでございます」
「・・何処っスかね、ここは?」
「とりあえず、風の通り道があるから・・。どこかに通じている筈よ」
確かに 未だに風が・・空気がここまでくるということは、どこかに出口があるということだろう。
「とにかく、行きましょう!」
改めて気を張るダガーの一声で前に進む一行。
「ここ、ほんとにアレクサンドリアなんスか?」
「知らぬが、きっとそうであろう!」
しかし、右を見ても左が見ても知らない空間が広がるばかり。
「・・で。どっちに行けば外に出られるんスかね?」
「う~む、それは・・ きっとこっちでありますぞ!」
「そういう風に行動するのをなんていうか分かる?」
「・・?バッシュ殿・・?」
「こういうときは勘で動かないほうが良いってことよ。 ね?ダガー」
ダガーが知っているのを分かっているかのように、バッシュはダガーに声をかける。
「・・ええ。トット先生から、この場所の話を聞いた事があるの。この場所は、昔のアレクサンドリア王が敵国の侵入を防ぐために設けた場所だって。それから、確かトット先生は、こんな事も言っていたわね・・」
「姫様! そのような話は後ほど、ゆっくりと聞かせて-」
勝手に先に進んでいたスタイナーの目の前には・・・。
一行を覆いかぶさるかのような大きな大きな・・鉄製の牢屋。
「お主、何をした!」
いつものようにスタイナーとマーカスがぶつかり合う。
「俺は何にもしてないっスよ。変な言い掛かりは止めて欲しいっス」
「ふがー!!本当に何もしとらんのか!?」
「信じられないんスか?」
「とにかく後ろに・・」
「もう逃げられないわよ・・。残念だけど」
そう。
覆いかぶさるかのうような・・ではなく。
紛れもなく、覆いかぶさっている状態で左右上下みても逃げられる術が無い。
そんな一行を見つめながら笑う、2人の・・。
「引っ掛かったでおじゃる」
「いい眺めでごじゃる」
おじゃるとごじゃる・・ではなく、ゾーンとソーンがお互いの顔を見つめ、笑いあっていた。
「ゾーン、ソーン! プルート隊隊長のスタイナーだ!直ちに、この仕掛けを解除するのだ!!」
「そう言う訳には、いかないでごじゃるな」
「諦めるでおじゃる。話があってもなくても、ブラネ様には会わせるでおじゃるよ。」
「何たって、ガーネット姫を捕らえよ!と命令したのは、ブラネ様でごじゃるからな!」
「!?」
お互いの顔を見つめあう一行ら。
「・・・そのブラネの目的は一体何なの?」
冷静にゾーンとソーンに問う、バッシュ。
「・・!!バッシュ!ブラネ様を呼び捨てに-」
「貴方こそ分かってないわね。その『ブラネ様』が何故私たちをここに閉じ込める許可を彼らにする訳?」
「何かの間違いであります・・」
「その間違いが仇となるわよ?スタイナー」
それに・・・。
冷たい氷の鳥はにやりと微笑を浮かべる。
「その『ブラネ様』に話したいことがあるわ。呼びなさい」
------
大樹の幹らを潜り抜け、たどりついた聖なる楽園・・・。クレイラ。
「・・・・・ここが・・・クレイラ・・?」
不思議な雰囲気が醸し出している聖樹を見てサクはふと思う。
・・・ここは・・・フレアが修行していた場所に似ているな・・。
「ブルメシア王はご健在だったようじゃ」
ほっと息を吐くフライヤ。
「ほら、あそこで手を振っている・・。ジタンよ、私は王に謁見してくるが・・お主達はしばらく休んでおいてくれぬか?」
「ああ、わかった」
それじゃ、と言い フライヤは奥へ奥へと入っていった。
ふと。
「・・?」
サクは何かの匂いを感じた。それは木々からなのだが・・。
「・・気のせいか?」
サク・ビビ・ジタンの3人は街中に入っていった。
刹那。
「あっ!!! とんがり帽子のオバケ!!」
小さな男の子がビビを指差し警戒心を立てる。
「そ、それ以上、近寄らないでっ!」
「やっぱり俺達を襲うつもりだったのかっ!?」
「え・・・ぼ・・ボクは・・」
「言ってみろ!!何故ブルメシアを襲った!!」
「ボク・・ボクは何も・・」
弱気なビビに対し、ジタンは声を掛けてやる事が出来ずにいた。
だがサクは違った。
「この子は何もしていない。私とジタンとフライヤと共に旅をしている・・」
「だからって-」
「ビビはビビだ」
ぴっしりというサク。
「私の仲間を侮辱したら・・どうなるか-」
「ひっ」
獣の瞳でにらみつけられる兵士。
「・・さあ、行くぞ。ビビ」
「・・うん・・」
しかし、フライヤは夜になっても帰ってこなかった。
「なんだかなー」
「・・さすがにフライヤは何をしているのか・・気になるな」
ふと思った。
・・・ここの匂い・・。
(ナツカシイ)
「・・フレアも思っている・・か・・」
「・・?」
「フレアもここを守りたいということだ。ここは私たちの故郷にかなり似ている。それがどんなに短期間で終わったとしても、私たちは覚えている。だから・・」
「・・・守る・・か」
そう言って、ジタンは大きな月を見た。
翌日。
突然大聖堂に呼び出された3人は一日いなかったフライヤを見ていた。
「フライヤ様」
クレイラの大祭司は静かにクレイラに言う。
「我々はこれから古来より伝わる砂嵐の力を強めるための儀式を執り行います。クレイラを取り巻く砂嵐の力を強めれば、敵も諦めて帰ってくれる事でしょう。そこで、竜騎士であるフライヤ様の力を加え、より強力な砂嵐を作りたいと思うのですが・・・」
「ブルメシアとクレイラがひとつだった頃から伝わるあの儀式の事ですね?わかりました」
ジタンはそれを聞き、朝呼び出されたときのフライヤの言葉を思い出す。
『ジタン、私はブルメシアを守る事が出来なかった・・・もうこれ以上、ブラネの思い通りにはさせたくないのじゃ!』
(・・フライヤ、何だか変わったな。初めて会った頃は、そんなに強い心を持った奴だとは思わなかったぜ)
『フラットレイ様が願ったブルメシアの平和は遂に叶える事が出来なかった・・。 今の私に出来る事は、この美しいクレイラを守る事のみじゃ・・』
(クレイラを守る事は、きっと、フライヤ自身のためにもなると思うぜ)
一方サクリティスは・・・。
(儀式・・ねぇ・・)
(? どうしたフレア)
(・・・覚悟・・した方がいいかもしれない)
(・・・・儀式は上手くいかないだろう・・な)
(ああ・・、クレイラの周りに渦巻いている黒い力・・。
時期を見ているのだろうね。この結界を解くための・・!)
(・・・この場所は・・守れないのか・・?)
否。
(私たちが一つになったらこの場所を守ることができるだろう)
そして儀式を見ていた。
しゃらん・・・。
そんな不思議な音がしたとたんに激しくなる。
聖堂がぴりぴりと痺れるかのような音を立てる。
そして。儀式が終わりがけのときにぴーん、という何かが切れる音がした。
弦が・・切れたのだ。
「弦が切れた・・・不吉な・・」
「・・力が強すぎたのだな」
その場の緊張に対し、サクは口を開く。
「・・お前たちがこの場を『守りたい』『守りたい』と願う力・・念が強いほど、強力な力を要する。だが・・・」
そう言ってルビー色に光る石を手にする。
「・・これはその念に負けたということだな」
「・・・どうすれば」
不安がる神官に対し、獣の瞳は黒い力のみを見つめていた。
------
「ガーネット姫もようやく16歳を迎えたでおじゃるな」
にやりと笑みを浮かべるゾーン。
「ガーネット姫もようやく召喚獣を取り出せるようになったでごじゃる」
こちらもにやりと笑みを浮かべるソーン。
それをぶち壊した一匹の大鳥がいた。
ぎぃぎぃ言いながら、閉じ込められた檻をがたがたとさせる。
その拍子に、大鳥の羽根がぽろぽろと落ちる。
しかもそれは「凍っている」のだ。
こんな迷惑な話は殆どない・・。
「うるさいでおじゃる!!」
「静かにしてろでごじゃる!!」
大鳥に怒りをぶつけるゾーンとソーンだが、後ろで怒っていらっしゃるお方をお忘れなのだろうか・・?
「ゾーン!ソーン!そんな大鳥かまっている場合じゃないよ!!早くガーネットから召喚獣を取り出すんだよ!!」
「分かってるでおじゃる!!」
そう言い、ぱたぱたと気を失っているガーネットへ走っていった。
------
事の発展はバッシュが「ブラネ様」と話したいという所から始まった。
「・・で、どうよ?」
にやりと微笑んでいるバッシュ。
それが不気味にさえ思えたゾーンとソーンは、
「・・分かったでおじゃる!」
「特別に了承するでごじゃるよ!!」
と。
あっさりと了承を得た。
だが・・。
こつこつこつこつ。
ぼそっとバッシュはダガーに声を掛ける。
「ねぇ・・どこまで行く気かしら」
こつこつこつこつ。
音をたてて歩いているのでゾーンとソーンには分からない。
「・・・地下に・・お母様がいるとは考えられない・・」
「だからといって、ここから逃げれるわけない・・わね。でも、私は呼びなさいといったのに~・・」
ふふ とダガーは横で微笑んだ。
そして地下部屋へ、たどり着いた。
「おお、ガーネット! 何処に行っておったのじゃ。母は夜も寝られん程に心配しておったぞ!さあ、もっと近う寄って顔を見せておくれ」
ダガーはブラネを見るや否や、俯いてこういった。
「・・お母様、ひとつお聞きしたい事があるのです・・」
「何じゃ? 可愛いお前の聞きたい事なら何でも答えてやるぞ」
にっこりと微笑んだブラネをバッシュは見、偽の笑みだ と一瞬で理解した。
それでも話は進んでいく。
「ブルメシアを滅ぼしたという話は本当の話なんでしょうか?」
「何だ、聞きたいというのは、そんな事なのか?それは違うのじゃ、ガーネット。あれは、ブルメシアのネズミ達がアレクサンドリアを滅ぼそうと企んでおったのじゃ。だが、この美しきアレクサンドリアをそう易々と滅ぼされてはならんじゃろ? だから、そうなる前に手を打ったのじゃ」
「・・・その話、信じでも良いのでしょうか?」
「当たり前ではないか。それとも母の言ってる事が信じられぬのか?」
「わたしには、その話を信じる事が出来ません!」
「おお、どうしてなのじゃ?この母の言う事が信じられぬと申すのか?」
「・・・自分の目で見てきたのです。この世界が、どんな形をしていて、どんな人たちがいるのかを。そのなかで、唯一信じられる仲間の中に、ブルメシアの人がいます。その人の種族が、そんなことをする人じゃありません!!」
必死に言うダガー。
しかし、この話もここで終わり。
「自信気だね~・・」
ダガーたちの後ろから声がした。
声の主は、銀髪で長い。
ふわりとしたローブはなにか異様な形をしていた。
最低でも、この世界では見かけられないような・・・。
「どのぐらい、この世界を見てきたかは分からないけど。そろそろ お時間だよ・・小鳥さん」
はっ とダガーは目を見開いた。
なにかくる・・。
それは分かっているのに・・。
「スリプル」
そして、その場でふわりと床に落ちてすやすやと寝てしまうダガー。
(・・まずい・・!!)
反転させるも、もはやそこは敵の領域。
完璧に囲まれている状態で何もすることが出来ない・・。
「小鳥のお仲間は・・抹殺ですか?」
その通りだ とブラネは頷く。
「そんなに簡単にいくものですか!意地を見してあげるわっ」
そう言って詠唱するが・・・何かに阻まれる。
(・・・この気配・・もしかして・・)
「何もしないでおしまい?」
そんな言葉とは裏腹に、「別のこと」で動揺を隠せないバッシュ。
(・・まさか・・目覚めてしまったの?)
そして『それ』は現れたのだ。
------
そして今。
バッシュは「神獣」の力と化しているのだが・・。
ぎぃぎぃとまた檻を傾けたりしている。
また、何故、ここに閉じ込められたのかというと。
珍しい「珍獣」だから ということなのだが・・。
『なによ!もう!こんな所にレディーを入れないでよ!!しかも私のことを「珍獣」とか言っちゃったりして!!れっきとした「神獣」なんだからねぇ!!』
といっているのは誰にも分かるまい・・。
そんな文句を言いつつも・・。
バッシュ・・ヴァシカル=クリスタルはダガーだけを誰よりもしっかりと視ていた。
------
冷たい氷のような眼差しで、獣は敵を見ていた。
敵は操り人形。
それを無言で切り裂く。
うざったい。
その獣の心はそのようなことを考えていただろう。
だが、不安もあった。
「何かが起こる気配がする・・」
ここだけではなく、この世界全てに・・。
内容まではわからないが、獣は黒き気配を感じていた。
それは早朝のことだった。
空からひらりひらりと落ちてきた物体があったのだ。
それは・・「黒魔道士兵!!」
それは無知であり、人間ではない存在物質。
問答無用・・否 初めから「感情」「考え」というものがない黒魔道士兵にとってはとてもやりやすい場だ。言葉通りに、ブルメシアとクレイラの人々を殺していく。
「ちっくしょう、調子に乗りやがって! 街の方は大丈夫か!?」
「・・・全員パニック状態だな・・」
ジタンの目の前にはサクがいた。
さすが、冷静冷淡なだけある。
だが、「そんなクールになっている場合じゃないだろ?!」
「分かっている・・だが・・」
ジタンを見つめたのは・・・人間ではない「殺気」。
「この木々らを守る」
そう言うや否や、大剣を持ち直し、走り去っていった。
「・・・・」
ジタンはぞくりとした。
あれは人間ではない。
分かっている。分かっていることだが・・。
ふと、周囲を見てみる。
「何だ、まだこんなところにいたのか?」
双子の巫女、シャロンとシャノンが居た。
「ええ、私達、この場所がとっても好きですの」
「心を洗い流すような砂嵐の景色はなくなりましたけどもね」
堅苦しかった雰囲気が、ふわりとした雰囲気に変わる。
「そうだな、オレも綺麗だと思うよ。この街は綺麗な街だ。住んでいる人も、とても優しい人達ばかりだ」
だから・・だからこそ。サクと同じように・・「守りたい」。
「だから、何としてもみんなを守りたい!さあ、大聖堂に集まろう!みんなで力を合わせれば、何とかなるさ!」
そう言い、ジタンと生き残ったものたちは大聖堂の中へと走っていた。
だが、相手は厄介。
大聖堂の目前の目前、まさに目と鼻の先。
敵が現れたのだ。
しかも左右に5体ずつ。
「くそぉっ、守りきれるかっ!?」
ずばっ と綺麗な十文字が敵の懐に描かれた。
「やっと頂上か・・」
「サク!!」
「なんとか無事着いたようだ。だが・・」
そう、相手は厄介。
「まだまだ来るらしい・・」
ふわりとまた光が5体追加される。
「さすがに量産型だけあるな・・。倒しても倒してもゾンビのよう復活してくる・・」
そう言うと必然的に溜息がついた。
「だが・・倒すしかないな・・」
サクでさえ、疲れが出ている。
・・・否。それは「疲れ」ではないのだ。
とてつもない気配。
それを敏感に感じる。
原因は分かっている。だが、無理なのだ。
そう思い、敵へと向かっていくが・・。
「邪悪なる者達よ、そこまでだっ!この槍が折れぬ限り、この地を奪う事は出来ない!鍛え抜いた私の槍の前には、お前達など薄菜も同然!」
突然大聖堂の天辺から男が舞い降りてきた。
それは若い若い、ブルメシアの民。
「さあ、早く逃げるのだ!」
「誰だか知らないけど、恩にきるぜ!」
その男に任せ、ジタンらは大聖堂の奥へと入っていった。
------
悲しみの歌・・苦しみの歌・・愛しさの歌・・・そして破壊の歌。
どれもかしこも、リヴァイアサン-サクリティスとあの山の神殿で出会ってからの「思い出」として親しんだ歌たち。
だが・・それは・・。
私の父に送った歌なんだと、あの時感じたんだ。
ぽろん、と悲しげな音が・・ハープが啼く。そして私は込み上げてくる「黒き気配」を追い払うかのように謳った。ただただ、ビビはその不思議な旋律に耳を傾けていた。
・・幸運にも生き残ったクレイラの民らと共に。
そして少しだけ、黒き気配が消え、私はほっとした。
「寂しい歌だね・・」
そう言ったビビは私に言った。
「何で、そんな寂しい歌を歌うの?」
「・・これはフレアの父がフレアの母に対して歌った歌だ。守れなかった・・悔しさと裏腹の愛しさ・・。それを詩に切り替えて「不安要素」を消す効果がある・・」
「・・そうなの?・・フレアのお父さんとお母さんはどうなったの?」
「・・・・・・・・・・・」
無言になってしまったサクは、何か複雑そうな顔をしていた。
それ以上言ってはならないと思い、ビビは「そろそろジタンたちのところへ行こうよ」と上手く話を切り替えた。
その時・・。横を通り過ぎていく、小さなネズミ・・。
「あ、あれ? 今のパックじゃ・・?」
きょろりとそこにいた仲間を見つめてみる、ビビ。
「みんな、どうしたの?」
『何か』が起こっているのは確かなのだが、後から入ってきた、ビビとサクはその『何か』が全くもって分からなかった。
ふと、ビビはフライヤの顔を覗いてみた。
「あれ? もしかして、泣いてるの、フライヤ?」
その声を聞いて図星だったのか、フライヤはただ苦く微笑んだ。
「面映ゆいのう・・幾度となく夢に見た男にやっと出会えたというのに・・・」
そして決心したのか、壁にかけておいた愛槍を手にし、こう言った。
「さあ、ジタン!まだ敵の手が休まった訳ではなかろう! 今一度、体勢を立て直すのじゃ!」
その時だった。
「ひえぇぇぇっ! ひえぇ、命は・・命ばかりはお助けをっ!!」
左端にいた全員が右側を見た。
そこにいたのは、アレクサンドリア国で女戦士では実力がある・・・「ベアトリクス!!!」
「ふっ、情けないネズミどもよ!お前達には、この宝珠を持っておく資格はありません!」
美しい持ち方をせず、少々下品な持ち方で宝玉を持っている。
「この宝珠さえ手に入れば、もうこの街などに用はない!」
「待てっ!」
「待つのじゃ!」
そう言い、ベアトリクスを追っていった。
「黒魔道士達よ、用は済みました。引き上げる準備に取り掛かりなさい」
ベアトリクスは近くにいた黒魔道士兵に指示すると黒魔道士兵は魔法を放出するため詠唱に取り掛かった。
「それで逃げるというのか・・」
残念だな、と赤の瞳で睨んでいた者が言った。
ふわり と強烈なプレッシャーを抱きながらも、さわりと揺れるショックピンクの短めな髪。
「・・・貴方とはもう一度戦いたかったのですが・・」
「紳士だな。だが、もう二度と私とお前は会えない」
「・・?」
「何故って顔だな・・私の正体は・・-」
己の事を言おうとした途端。
「サク!大丈夫か!?」
ジタンたちが駆け寄ってきた。
「貴方とは会えないのですね・・残念で極まりないです」
「コレも運命の内だ。それにこのパターンすら慣れているからな」
「・・・・・それよりもいいのですか?」
「何が?」
「私を逃がすことになるじゃないですか?」
「ならば、言おう。逃げれるなら逃げろ」
なんだか捨てられたようですね・・ と苦笑する、ベアトリクス。
そしてさようならと言葉を告げ、先ほどの黒魔道士たちが放出した魔法の中へと入っていった。
「何で逃がしたんだ!!」
興奮状態でキレるジタン。
それをそっけなく、「別に逃がしたわけではないぞ?」そう言って、地面を指差した。
「この魔法は『デジョン』と呼ばれる異次元移動魔法。今のうちならば、この中に入ってもベアトリクスに間に合うだろう」
「まじかっ!?じゃあ遠慮なく。お前達も、すぐ来いよ!」
そう言いつつ、ジタンは喜んで魔法の中へと飛び込んでいった。
それを見ていたビビが、「ジタンが行っちゃったよ!?」と驚いているビビに、フライヤは故郷を眺めていた。
そこからならば近くにでもあるかのような『青き都市』。
「私にとっては、もうこの地を訪れる事はないやもしれぬ。また、お主にとっては、お主の本当の姿を知る最後の機会やもしれぬな、ビビ。さあ、ビビよ! 勇気を持って行くのじゃ!」
フライヤもまた、魔法のなかへと飛び込んでいく。
「あううう、フライヤまでも・・」
左右にゆらゆらと混乱しているのだろうか、動くビビ。
はた、と思い出したかのように、サクを見た。
「サクは行かないの?」
「お前が先だな」
「ええーーー。僕、高所恐怖症なのに・・」
「だが、少しだけ慣れたのではないか?」
「う・・ん。で、でも・・」
だが、その言葉を残したままビビは無理やり押しこまれ、魔法の中へと入れられた。
ビビは振り向く。
「サク・・!!!!」
「お前たちの旅は面白かったぞ。だが、お前たちとは別に『やらなければならない事』が出来た。お前たちは、このまま前に進め。後ろを振り向くな。そして強くなれ・・」
絶句のビビに対してサクはにこりと微笑んだ。
「さらばだ・・小さき者よ」
そういうのと同時に、ビビもまた魔法の力によって飛んでいった。
さあ・・ と、木々たちが揺れる。
「残されたのは私と残りのブルメシア人・・ということか」
------
・・閉じ込められた鼠たちは果たして動かないことが前提なのだろうか?
否・・鼠達は実に勇敢で・・・。
「脱出するのだ!」
「本気っスか?」
「このままじっとはしていられないのである!」
「まあ、いいっスけど・・・」
「だがどうやって・・」
「って、そこまで練ってなかったッスか!??」
・・実に勇敢で単純である・・。
------
その頃・・。
赤いレッドローズの色に染まった飛空艇が空を飛んでいた。
場所は・・・・・フレア、そしてサクがいる美しき聖樹「クレイラ」上空。
「さて・・。ガーネットも召喚士の力を持たなければ、ただの小娘。もはやガーネットに召喚獣を呼び出す力は無く、呼び出せるのは、このダークマターによってのみ!」
黒い光を宿した宝玉を美しいものと言わんばかりにそっと見つめるブラネがそこにはいた。
それは狂い、醜くなった、強大な猫のような・・。
「クジャの言っておった事が本当かどうか、こいつを使えばすぐにわかるというものだ」
黒い宝玉を空に掲げ叫んだ。
「さあ、オーディンよ!お前の剛力を見せておくれ!!」
その間にジタンたちは同じくブラネが乗っている飛空艇にようやく着いた。
「ふぅ~、ついたな」
「なかなか長かったのぉ・・」
なんだか、いつの間にかお爺さん、お婆さんのように疲れ果てている尻尾を持っている二人組みがぐちぐちいっているが、それはおいといて。
「あ・・・あれ・・・」
ビビが恐怖の声を上げた。
ビビが見つめていたのは「暗黒」。
全てを破壊するかのような黒い闇・・。
そこから馬が現れた。
馬もやはり黒く、狂気に満ち溢れていた。
その馬に乗っていたのは、騎士だった。
騎士もまた狂気に満ち溢れ・・ある「一点」を見つめていた。
それは・・・・。
騎士は手に持っていた大きな大きな槍を上空に掲げ、一気に「一点」に投げつけた。
その「一点」・・・クレイラ。
「!!」
がくん、と崩れたのがフライヤだった。
「クレイラ・・・フレアが・・パックが・・皆皆・・・」
「どうすれば・・いいんだよ・・!!畜生!!」
全てを破壊する槍を見つめて絶望を感じる3人。
『大丈夫だ』
ふわりと。
声が聞こえた。
「フレア・・?」
「フレア!!どこに!」
『ここは大丈夫。行きなさい。貴方たちはやらなければいけないものがある。貴方たちは守らなくてはいけないものがある。それは何なのかは、貴方たち自身がしっかり分かってるはずだ。そして・・・』
それから、声がぷつりと聞こえなくなった。
「じゃあ・・じゃあフレアはどうなるんだよ!!」
「・・・行きなさい・・か・・」
ぽつりと重たげな言葉を口にした。
そして、ビビは決意をする。
このまま・・フレアの言葉通り、進むことに。
「行かないと・・恐いけど行かないと・・。フレアが言ったんだ。行こう!ジタン、フライヤ!」
「成長したな・・ビビ。ビビの言うとおりだぜ!」
「そうじゃな!行くぞ!」
「でもどうやって-」
「空が・・・夕焼けのようだ・・」
(ベアトリクス!!)
(隠れよう!!)
敵の気配を感じ、すぐさま隠れるジタンたち。
「何故・・・」
おおん!
「・・獣の声・・?」
カッと空が赤く光る。
「・・・サク・・?」
ベアトリクスは目をこしらえてきっちりと見つめた。
一匹の獣がいる。
赤い鬣が長く尾まで続き、とても長く、ふわりとしていそうな感触さえ感じそうな白の体。
口から出されるのは強力な火炎放射。
それは赤というよりも明るい紅といったほうがいいほど、空を反映させる。
すぐさま、それが「サクリティス=リヴァイア」だと感じた。
だが・・今はそれどころではない。
「何故・・ブラネ様があんなにも変わってしまったのか・・。そして、何故ガーネット様を処刑するのか・・」
(処刑!!ダガーが!?)
(ジタン、しっかりしろ!今お前が暴れると・・・)
(そうだよ!ジタン!)
(分かった、分かったから引っ張ったりしないでくれ・・い・・いたい!)
「私は・・私は・・」
「おおベアトリクス将軍、例の物は手に入れたか!?」
「はっ、お望みの宝珠は、この通り手に入れました。」
「おおっ、これさえあれば!・・いや違う、後もうひとつだ!もうひとつ、宝珠を揃えなければ!!」
興奮し、だん、とブラネはテーブルを叩いた。
「ベアトリクス将軍よ!早く、後ひとつの宝珠を見つけ出すのじゃ!」
「・・わかりました。ところでブラネ様、ガーネット姫のお体の方は大丈夫ですか?」
「ガーネット?ガーネットの体からすべての召喚獣を抜き出した後はあの小娘は、もはや用無しになるな!」
以前から、ガーネットのことを気にかけていた。
だが・・小娘?自分の子供のように可愛がっていたガーネットを小娘?
「・・・ブラネ様、それはどういう事ですか?」
冷静に、実に冷静にベアトリクスは聞いた。
しかし、返ってきた答えは・・実に現実で、残酷。
「ガーネットは宝珠を盗み出した罪で処刑する!!」
一瞬、どこか天国へと飛んで行きそうになった。
「今、何と?」
「ええい、何度も言わせるな!このレッドローズがアレクサンドリアに到着したら、直ちにガーネットは処刑すると申したのじゃ!お前は、早く後ひとつの宝珠の在処を探し出せ!!」
「ブラネ様・・」
(何故、ブラネ様がクレイラを消滅させる必要があったのか・・。そして、何故召喚獣、そして黒魔道士などを使われるのか・・。そして・・)
獣を見た。獣は怒り狂いながら、去っていった。
(私は・・・このような事のために技を磨いてきたわけではないのに・・。それなのに、何も出来ない)
去っていった獣は鳴き続ける。
(何故、お前は他人を救いたがる?何故、お前はそこまでして自分を壊す?
そして、何故私はお前のように何も出来ないんだ・・?)
不安ばかりのベアトリクスに対し、いつ見つかるかどうかの問題となっていたジタンたちはこそこそと話していた。
(何で呆然としているんだ?)
(・・・まるで殺気がないな・・)
(よし、いまのうちに!!あのポットで飛ぼうぜ)
(ええ!?あれでどこにいくの?)
(当然!俺、さっき兵士がテレポットを使ってアレクサンドリアに戻る所を見ちゃったし聞いたからね)
(さすがジタン!)
(ダガー、待ってろ!俺が絶対助けてやる!!!)
------
アレクサンドリア城内では一種の異変が起きていた。
氷の鳥でもなく、囚われの身の王女でもない。
そう。それは、ちっぽけな兵隊とちっぽけな盗賊に起こった異変である。
そうそれは、スタイナーとマーカスが入っている牢獄で起こった。
「何を・・しようとしているんだっ!!あの二人は!」
そう言ったのは、牢獄の身回りをしていた一人から洩れたもの。
洩れるのも無理はない。
その牢獄はまさに今、振り子のように動き出しているのだから。
そして、それがどんどんとこちらに向いてきているという彼女たちにとっては非常事態。
「まずい・・逃げ-」
言葉が続くことはなく、どん という音が鳴り響いた。
「ふうう・・なんとか脱出できたッス」
「姫様~!!今このスタイナー、行きますぞ!!」
「って、姫様ばっかり・・」
牢獄内でなんどもなんどもぐちぐちねちねちと散々話を聞かされたので、嫌になってきたマーカスであった。
そして裏門に続く道にたどり着いたとき、マーカスが足を止めた。
「・・・?」
何故、と思いスタイナーも足を止めた。
「じゃ、俺は兄貴がいる魔の森へ急ぐっスから」
そう言い、すたたたと走り去っていった。
「って、待つのだ貴様-」
感謝の言葉も貰っていないスタイナーだが、マーカスの素早い足に勝つことはできない。
その刹那。
どすんと何かが落ちてきた。
「ぐえっ」
スタイナーが苦しい悲鳴をあげた。
「あれ、おっさんじゃないか」
あっけらかんとした言葉がスタイナーの頭上から聞こえた。
「貴様! 何故!このような場所にいるのだ!?」
そんな言葉とは裏腹に、疑問を投げかけるジタン。
「スタイナーのおっさん・・! ここはアレクサンドリアなのか?」
「うぬぬぬ、今は貴様の質問に答えている時間はないである!自分は一刻も早くこのアレクサンドリアの地下牢から抜けだし姫様をお助けしなければならんのだっ!!」
「それだけ聞ければ充分だ、さあ、ダガーを助けに行こう!」
「どいつもこいつも自分をノケモノにしおってからに!」
「おっさん、来ないのか? ダガーが殺されてもいいのかよ!」
「姫様が殺される!? 訳のわからぬ事を申すでない!」
「本当だよ、おじちゃん」
さみしく・・本当に寂しく言うビビ。
「ブラネがレッドローズに乗ってアレクサンドリアに帰ってきたら、お姉ちゃんを殺してしまうんだって。ボク、聞いたんだ・・」
「それは本当でござるか、ビビ殿!?」
「って、本当にビビの言葉しか聞かないんだな・・おっさん」
それじゃあ探さないとな、と言い出したのはいいが。
20分経っても、その地下牢が見つからない。
「なんて広いんだ、ここは」
ううむ と一番城のことを知っていそうなスタイナーが唸る。
どうするの~? と不安そうなビビ。
なんとも言えん といっているのはフライヤー。
「ふう」
ジタンは溜息をもらした。
そして休憩がらみに、ふと紫色に光る蝋燭を見つけ。
「変な光の蝋燭だな・・」
呟きながらも触ってみると、ぐるりと壁は動き・・・-。
「うわっ!!」
暗闇の中へとジタンは入っていった。
「なんだここ・・」
そう思って、スタイナー・ビビ・フライヤーを呼び出した。
「・・・寒いぃぃ」
「なんて寒さだ・・」
「すっげぇ寒いな・・ここは」
「・・・」
一人だけ無言だったのは、スタイナー。
「どうしたんだ?おっさん」
「・・・何故、寒いのか」
「???」
「ここは人を閉じ込める「牢」だ。牢獄とはいえども、罰を受ける場所ではない。したがって・・この寒さは・・」
きゅおぉぉ と鳥の鳴き声がした。
「・・・なんだ今の鳴き声・・」
「いってみよう!!!」
きゅおお とまた鳴き声がした。
そこにいたのは、大きなブルースカイの鳥。
散らばっていたのはその鳥の羽から抜け落ちた羽根。
それは・・綺麗な結晶と化しきらきらと床で光っていた。
「なんだこいつは!!」
フライヤは驚き、そう言った。
「モンスター・・・?」
きゅう・・ と小さく鳴く鳥。
「違う・・・違うよ。これは・・・」
【これはまるでフレアと相対な雰囲気】
「これは・・・・リーズだよ、ジタン」
ビビが呟いた。
かちゃり と鳥籠の扉が開いた。
すまなさそうに きゅう と鳥は鳴く。
「本当にお前、リーズなのか?」
こくりと頷く鳥・・・否、リーズ。
そしてリーズは遠くの方をじぃーと見つめていた。
そこで倒れていた人物は・・・。
「ダガー!!!」
慌ててダガーの元に駆け寄ると、ダガーはまったく動かずに横たわっていた。
「なんで・・・こんな」
『強力な眠りの魔法で眠らされて、ダガーさんの魔力を吸収されたんです』
ばさりとリーズは翼をはためく。
「やっと、会えたってのに・・・くそっ」
『そんなことをしている場合では-』
ない、というその時だった。
「いたでごじゃる!」
「あいつらでおじゃる!」
双子のごじゃるとおじゃる・・・じゃなかった、ゾーンとソーンの双子の魔法使いが現れた。
その後ろから、もう一人・・。大将ベアトリクス。
「お久しぶりですね、スタイナー。これまで、何処へ行っていたのですか? まさか、このようなケダモノ達と遊んでいた訳ではないでしょうね?」
ジタンは「ケダモノ扱い」され、怒鳴った。
「何だとっ!ケダモノはいったいどっちだと思っているんだっ!」
「・・・まだ、貴方達は懲りていないようですね。アレクサンドリアに刃向かう者は、私が許しません。もう、この地には足を踏み入れぬ事です」
『いい加減にしなさい、貴方』
すっと出てきたのは大きな鳥。
『貴方は分かっている筈。今の状況も、ブラネの思惑も』
「・・・分かっている。だが・・・私がガーネット様を守る!!」
『だったら、貴方は私たちの仲間です』
「違う!!最低でもその後ろのケダモノ達は!!」
『・・・フレアを見て、サクを見て、貴方はどう思いました?』
「・・・・!!」
『あの人はいつもそう。誰かを守りたい、守らなければならない。それが私たちの「存在意義」だから。しかし、ブルメシアの民を守ったのはそれだけではない。・・・自然を守り続けたブルメシアの民をあの人は美しいと思って守ったのです』
「・・・だからなんだ・・・」
『一人で抱えないことだ』
ソプラノの声から、突然アルトの声に変貌した。
『全て一人で抱えようとするから無茶をする。一人で抱えようとするから、誰かを傷つける。相手から見たら、それは「エゴ」としかいいようがない』
「・・・」
『ということで・・・そこのおじゃるさんとごじゃるさん?』
「「ち・・ちがーう!!」」
『どちらでも良いですが、そろそろご退場してもらいましょうか?』
ばさり、と翼を大きく広げ、突風を生み出した。
不思議なのはゾーンとソーンだけが吹き飛ばされたのだ。
だがそれは部屋の外から退場するまでは至らなかった。
「何の騒ぎじゃ!」
うるさいおばさん、ブラネが来たのだ。
「こいつらがガーネット姫をさらおうとしているのでごじゃる!」
「ガーネットか。もうガーネットからはすべての召喚獣を抽出したのか?」
「抽出したでおじゃる!」
「だったら、早くガーネットを捕らえて牢屋に閉じ込めておしまい!」
「「わかったでおじゃる!」」
ゾーンとソーンは動き始めたが、そこにベアトリクスが立ちはだかった。
「その命令、どうかお取り下げください!」
「ほう」
実は興味がなかった、という感じで微笑するブラネ。
「このブラネに逆らうとは、どういう経緯じゃ?」
あの時自信を持っていえなかったことを、今・・ここに。
「ブラネ様、私の使命はガーネット様の身を守る事。どうか、これ以上ガーネット様に手をお出しにならないでください!」
そして騎士剣を構え、言い放った。
「あなた達、この場は私に任せて早く逃げなさい!」
同感だ、と言い槍を構える、フライヤ。
「私はこの場を去れぬ! ジタンよ、早く逃げるのじゃ!」
「・・・」
無言で立ち尽くすスタイナー。
その異常さにジタンは気づいた。
「どうしたんだよ、おっさん」
「忠誠を誓ってきたブラネ様に刃を向けたベアトリクスと、自らの仲間を殺されながらも、共闘して姫様を守ろうとしてくれているフライヤ。ブラネ様が本気で怒ってしまった以上、彼女達の命を取りかねん!」
きりっとジタンを見つめるスタイナー。
ジタンすらこんな瞳を見たことはなかった。
「ジタン、お主に頼みがある!」
「な、何だい改まって・・」
「アレクサンドリアを無事脱出し、姫様をトット先生の元へ送り届けてはくれぬか?トット先生なら、この荒んだアレクサンドリアを救うための良い手立てを考えてくれるはずだ!」
「わかったぜ! その心意気、オレが引き受けた!」
「ボクも頑張ってみる!!」
「ジタン殿、ビビ殿、リーズ殿・・・。頼りにしているぞ!」
「ついさっきまでは敵と味方だった者が今は手を組み、味方を逃がす。まさしく感動の場面だな。
面白い。ゾーンとソーンよ、私を本気で怒らせた奴らを徹底的にやっつけておしまい!そしてガーネットを逃がすな!殺せ!」
「わかったでごじゃる」
「フライヤ、ベアトリクス・・・おっさん! 後を頼んだぞ!」
「任せておくのじゃ!」
「さあリーズ! 行こう!」
『ええ、さあ私の背中に乗ってください!』
「・・・俺たちを凍りつかせないようにな」
そこが一番不安だった。
『そこは問題無いですから・・・』
「にがさないでごじゃる!!」
脱出口から強大な獣が出てきた。
それとは裏腹に、大鳥は飛び出す準備をしていた。
『行きますよ・・・しっかりと捕まっていてください!』
「おう!」
「大鳥を噛み殺すでごじゃる!」
ばっ、と獣はジャンプした。
しかし、大鳥が飛び出したのが早かったのか、獣は完全に氷づけ状態にされたのだ。
鳥は大きく羽ばたきながら、素早く地下から脱出する。
旋回しつつ、出口へと急ぐリーズ。
「頑張れ、リーズ!」
「リーズ…頑張って…」
リーズの背中で応援するジタン、ビビ。
そして眠れる姫ダガーを乗せて、大いなる氷の鳥は飛んでいく。
だが、もうすぐ出口だというのに。
「しまった・・・罠か!!」
リーズを覆いかぶさるかのような大きな大きな・・鉄製の牢屋。
またもや引っかかってしまったようだ。
「何度見ても、いい眺めでごじゃる」
くすくすと笑っているゾーンとソーン。
「お前達っ、卑怯だぞ!!」
「これが我々のやり方でごじゃる」
「お前達に口出しはさせないでおじゃる」
「くそぅ…何とかできないのかっ!」
その問いにリーズが答えた。
『壊しましょうか?』
「なっ…」「そう簡単には壊れないでおじゃるよ!」
ゾーンとソーンがきーきー言っている間に、大鳥の口から放たれた強力な冷気が鉄製の牢屋を凍らせる。
『今です!ジタン、ビビ』
「おう!」「うん!」
その氷漬けにされた牢屋の扉付近をジタンの「シフトブレイク」とビビのサンダラで木っ端微塵に破壊した。
ひゅんと何かが飛んでいった音の後には、その場にはゾーンとソーンしかいなかった。
呆然と空を見つめる二人しか。
「…ま…まんまと」
「逃げられてしまったでごじゃる…」
------
地下道をどんどんと駆け上っていく。
そうどんどんと…。
「なんか・・・おかしくないか?」
ジタンがそう思い始めたのは、結構経ってからだった。
そして大鳥に声をかけてみる。
「おーい、リーズ!おかしくないか?」
「…」
リーズは無言。
何故、と思いながらも今度は大声で言ってみた。
「リーズぅ!!おーい、聞こえているだろう?」
「…」
どんだけ大きな声でも聞こえていないようだ。
「まさか…」
ふと最悪な考えをした。
(リーズ、意識が無いのか!?)
意識が無い状態で体は動いている。
そんな状況はあると聞いたことがあったが…。
(まさか、リーズがなるなんて…!!)
ひゅんと何やら地下の駅みたいな所に着いたが、無視。
「…あ~、通り過ぎたか…」
恐らくあそこはスタイナーが言っていたトレノだったのだろう。
「でも、このままじゃ降りる事も出来ないし…」
その時に目の前に光が見えた。
「…!出口か!」
ばっ、と飛び出した。
刹那。
糸が切れたかのようにリーズは急降下し始めた。
「う…わあああ!!」
そのまま地面に衝突したのである。
「姫様! このようなゴロツキと話してはなりませんぞ!」
「とりあえず、スタイナーうるさいわよ」
きっぱりと 冷酷に言うバッシュ。
「な、何と・・・」
「わたしは再会した知人と話しもさせてもらえないのかしら!?」
ほとんど切れる手前のダガー。
「いえ・・そんな・・」
「アルデバート=スタイナー!!!!!」
「あ・・はっ!!」
「女性二人に怒られてるっス」
くすりと笑うマーカス。
「で・・何しにここへ?」
「・・・ブランクの兄貴を助けるためッス」
「・・・ブランクを?」
そう言って、マーカスはぎりっと手を握る。
「石になった兄貴を助けるため俺達はあちこち情報を集めたっス。そして、トレノに白金の針という、どんな石化も治すアイテムがある事を知ったっス」
「それでここにきたわけねっ」
「・・・この人は誰ッスか・・?なにやらハイテンションッス」
「ああ、初めまして。ヴァシカル=クリスタルと言います。バッシュって呼んでね」
ぺこっと挨拶するバッシュ。
(実は・・リーズさんの本当の姿・・なのよ)
(えっ こんな怖い人が・・)
「何か?」
そう言ってこそこそしている二人に対し睨み付けるバッシュ。
「それじゃ今度は俺が聞く番っス。ジタンはどうしたっス?」
唐突なその言葉に、顔を俯かせるダガー。
「・・・・・・・・別れたわ」
「ずいぶんあっさりしたもんスね。用が済んだらハイさようならっスか?」
「・・違う・・でも・・」
そう言って ふっ と顔を上げた。
「ねえ、マーカス。その・・・わたしにも手伝わせてもらえないかしら?」
「一人で十分ッス」
「でも、人数は多いほうが-」
そう言いかけた途端、バッシュが口を開いた。
「まぁまぁまぁ。お話は中に入ってからでいいじゃないかしら。ずっとこんなところで立って話していると辛いでしょう?」
それに・・・。
「な~んか、ずっと前から後ろから黒い気配がするのよね・・・」
そう言った刹那。
「ヒギュッ…… にンム…… ダッかン。ガーネッとひメ…… イかしテ……」
ががぴき と言わせながらも片翼を羽ばたかせるひとつのブリキ。
そして、体中から強力な電撃が放たれた。
「・・・ふんっ」バッシュの手の中心に集まる無数の風。
その風がバリアの役割をし、攻撃をしてくれる要。
「消えなさい! フェル・ローガ!!!」
そう言って木っ端微塵にされ、大地の一部と化した。
「まぁ、ダガーはいろんな奴から狙われているからあまり一人で-」
身近にあった埃が遂に取れたような すっきりした顔でダガーたちを見た。
見ようとした。
しかし、目の前には誰も・・・いない。
「え~~~~~~~!!?私だけ置いてきぼり~~~~!?」
------
「まーったく!皆どこ行ってしまったのかしら」
そう言ってブツブツ言いながら、ぶらぶらと歩くバッシュ。
そんな彼女の目の前には 一つの大きな塔が見えた。
試しにのぼってみることにしたバッシュ。
永遠にありそうな階段を一段一段確実に上っていく。が。
「ちょ・・とぉ・・ こんなにもあるなんて・・・思わなかったわ・・」
前々から相棒のサクよりも体力が無い彼女にとってはまさに地獄・・。
だったら登らなくても良いのでは? とお思いだろうが、彼女は好奇心が旺盛で 何かを見た瞬間「とりあえずはやってみよう」と考えてしまう人なのだ。
そんな地獄の階段も終わり、目の前に広がっていたのは。
「・・・これは・・?」
大きな球体。
しかし、地図のような文字がそこらじゅうに書いてある。
「ガイア儀ですよ」
そう言ったのは 小さな学者だった。
「あ・・あら。勝手に入ってしまってごめんなさい」
「いやいや、私がきちんとしっかりここを閉めてなかったのですから。それにしても、お気に召しましたかな?」
そう言われ、ガイア儀を見つめるバッシュ。
「うーん・・。こんな大きな儀を見たのは久しぶりかもしれないわね」
「失礼かと思いますが、貴方は 氷の鳥「ヴァシカル」ですかね?」
「・・・あら?どうしてお名前まで知っているのかしら?」
そう言って考え込む。
己の名は大体は明かしている。もしかすると周りで聞いていたかもしれないし・・。
だが、「氷の鳥」というバッシュの力の名まで知っているとなると。
「もしかして「星の民物語」の所持者?」
「その通りです」
そう言って学者が見せたのは、一つの古い古い本。
「珍しいわねぇ。これをもっているというのは」
「いやいや。アレクサンドリアで研究をしていた際、この本を見つけたのです」
「研究?」
「そうです。アレクサンドリアの姫君の家庭教師もしておりました」
「・・・ダガー・・ガーネットのこと?」
「おお、もしかして姫様のお知り合いでございますか?」
「まぁ そんなところね」
「ガーネット姫様なら 私と道具屋で接触しましてね。もうすぐここに来ると思いますよ」
そう言った時。
「あ。トット先生。それに・・バッシュ!」
ダガーたちが来たのだ。
「おお姫様! すみませぬな。このようなむさ苦しいところまで御足労いただいて」
研究ばっかりをしていた彼の周りには無数に乱れた本がたくさん・・。
バッシュも何故気づかなかったのかが知れない・・。
「トット先生はここにお住まいなのですか?」
「アレクサンドリアを離れ、研究に金を出す物好きを探して転々としておりました。そして行き着いた先が、ここトレノという訳でしてな。しかしお美しくなられましたな。再びお目にかかる事が出来、このトットも嬉しゅうございますぞ」
「トット殿! お元気そうで何よりであります!」
「おお、そう言えば、先程はスタイナー殿もご一緒でしたな」
「は! 騎士としてあるまじき行為であったと猛省するばかりであります!」
「相変わらず真面目なお方だ。止むに止まれぬ事情があったのでしょう、敢えてその理由を問う事は致しますまい。それよりも、お探しの白金の針をそこの箱に準備いたしましたので、どうぞ御自由にお使いくださいませ」
ボロボロの小さな宝箱がおいてあり、マーカスはそれの口を開かせる。
「それじゃあ、これは貰っておくっス」
「この無礼者! 礼ぐらいまともに言えんのか!」
「まあまあ、スタイナー殿、構いませぬでな・・・。姫様の知り合いだと考えればそのようなものなど一銭の価値すらないので」
「これで兄貴も助かるっス。トットにはカンシャッス!!」
そう言ってにっこりと笑みを浮かべるマーカス。
彼の笑顔は始めてみたような気がした。
「礼儀も知らぬ盗賊ふぜいと一緒に行動せねばならんとは・・・」
それを見、ブツブツ言うスタイナー。
「トット先生、これは ガイア儀?」
そう言い、ガイア儀を見つめる。
記憶の奥底にあった幼き自分。今でも忘れられない、トット先生との想い出。
「もう8年前になるのね・・」
「月日が流れるのは早いものですな。 わたくしは相も変わらずこのような物を集めたり、研究したりしておるのですがね」
微笑し、トットもガイア儀を見つめた。
「古い品でしてな・・。このように壊れておるのですが、これもまた粋かと思い、改造して天体観測のための施設として使っております。ガイアの中から空を見る・・・なかなか悪くない物ですぞ」
「そうね・・」
「しかし、この空すら見ることもなくなった方たちは全てを破壊し、人を殺し 全てを失うまで狂っていってしまう・・。それこそが、今の王女・・ブラネ様です」
俯くダガー。しかし、心は決めている!
「・・・でもお母様を止めたいのよ・・私は!」
「そこまで言うのなら仕方がありませんね。・・・危険かとは思いますが、姫様をアレクサンドリアまでお送りする事に致しましょう」
そう言って隠し階段をだしたトット。
「こういう日も来るかと思い、古い機関を改良、保存しておきました。こちらです」
「おお! 我らがアレクサンドリアに戻る事が出来るのですな!?」
「俺も行くっス」
「何故貴様がついて来るのだ!」
「アレクサンドリアからなら、石になっちまった兄貴のところに行けるっス。」
「だったらちょうど良いんじゃない」
「それじゃ一緒に行きましょ。いいわね、スタイナー?」
「ウググ・・」
「ブランクも・・そして、お母様も、元に戻してあげなきゃ!」
そう・・敵以外の気配は・・!
ジタン フレア ビビの順に歩いていくが、一人だけぽつんと立っているモノがいた。
当の本人。
フライヤだった。
「・・・私がこの国を出てはや5年。この国・・麗しき水が照らす国の夢を何度見たことか・・・。いや見ぬ夜などなかった・・・だが・・・」
首をだらんとさせ、振るフライや。
「・・・・・私はこの国を守りきれるのだろうか・・?」
「大丈夫だ。俺がいる!」
「僕も頑張る!!」
「・・・・・・・・・・・」
やる気を起こすジタンとビビに対し。
フレアは空を見つめつづけていた。
降りしきる雨に濡れる顔・・。
「どうしたんだ?フレア?」
「・・・・・・血が・・・」
「・・・?」
「・・・あの時の・・・街・・・?」
「・・・どうしたんだよおい!」
「・・へ?」
今度はきょとんとした顔でジタンたちを見る。
「なにか?」
「いや・・お前なんかおかしかったぞ?」
「は?なにが?」
「なんか 血とか-」
「!! それは本当か?」
「え?う・・うん・・」
『もはやお前は限界に来ている。この血を嗅ぎ、雨に流されるとお前はどうなるか・・分かっているな?』
知っている。でも・・・。
『お前の仲間は任せて私に肉体を奪わせてくれないか?』
お前は暴力的だからなぁ・・・。
『・・せめて不器用だといってほしいのだが・・』
だからといってもお前にこの身体はやれない。
『そうか・・ならば最悪な状態に陥った時、我は現れよう・・』
「まぁ・・大丈夫だ」
そんな風に言うフレアの顔を見るジタン。
「本当の本当か?」
「・・・・うん・・」
「まぁ、行くか!ここにいてもしようが無い」
そう言って歩き出したが、「あれは・・」
そう。目の前にちょこんといたのは忘れもしない。
「おじゃるさんとごじゃるさん?」
「「ちがうーーーーーーー!!!!」」
もはや名も無い状況のピエロが二人。
「ほんと~にしつこい奴らでごじゃるよ!」
「というか名ぐらい知って欲しいでおじゃる!!」
双子のピエロはある物体を呼び出した。
それは、ビビと似ても似つかぬ存在。
「キル!」「キル!」
しかし、それを呼んだ瞬間。
砂にされる機械。
「・・フレア?」
こんな時は以前のように一言言ってからぶった切る筈・・。
なのに今 目の前にいたのは 悪魔のように無言で無表情。
まるでそれは鬼神のように機械はいなくなっていったのである。
「どうしたんだフレア・・・・」
「・・・・・・?」
「いつものお前じゃないぞ?」
「は?だからさ・・大丈夫だって-」
笑っているフレアが見たものは砂にされてしまった哀れな機械たち。
「・・・なんだこれ・・」
そんなこんなよりも機械がやられていく中をボー・・・と見ていたピエロ二人。
はっ・・・となんとかピエロの二人は気がついたらしい。
「そんな事ばっかりしているとあの女将軍に怒られるでおじゃるよ!」
「そうでごじゃる! あの女将軍を怒らすと恐いでごじゃるよ!」
そう言いつつ去っていってしまったのだ。
フレアがおかしいとかそんな事を言っている場合ではない。
早く、ブルメシア王の安否を確認し、アレクサンドリア兵を倒さなければ。
しかし、足は立ち止まる。
「ジタンよ・・。この階段の先はブルメシアの王宮じゃ。これまで見た国の荒れ様を見ると私はこの先へ進むのが恐ろしい・・」
「ここで立ち止まっちゃだめだ!あいつらの正体を見極めようぜ!」
「ボクもボクと似た格好をしたあいつらが何者なのかを知りたい・・・怖いけど・・ここまできたら・・」
「ほら、こんな小さなビビだって!この現実を正面から見つめようとしているんだぜ?」
「フライヤお姉ちゃん、一緒に行こうよ、ねえ・・」
そう言って ぎゅっ とまるで子供のようにフライヤの服を握った。
「ビビよ・・ お主怖くはないのか? お主がこれから見る現実は、お主の生き方に影を落とすやも知れぬぞ?」
「そうかもしれない・・ だけど・・だけどボクは・・ ボクがどんな人間なのかを知りたいんだ。もしかしたら・・・。人間じゃないのかもしれないけれど」
『私はあなたの大切な娘じゃないのか!!!』
『お前は私の可愛い人形だ。感情も無い ただ単に力があるだけの』
ビビの言葉にびくりとなるフレア。
忘れもしない。
己と己の中に眠っている獅子を滅茶苦茶にした人物がいった言葉。
でも。
今は目の前に守りたい仲間がいる。
『それは、本当に守りたいモノなのか?』
ああ・・・。
『なら、お前はお前の過去を乗り越えれる筈だ。我が無くても我の存在が無くなっても』
でもまだ・・。
お前と一緒に居たいし、お前も私のようになって欲しい。
それが長年一緒にいる、お前に対する本当の気持ちだ。
------
王宮に着くが、誰の気配も無い。
しかし、ただ一人のみ闇の気配を感じていた。
フライヤだった。
「フライヤ!」
ハイジャンプしたフライヤは下の三人にこう言った。
「王宮の中に人の気配がする!お主らも、早く登ってくるのじゃ!!」
「登れって言ったってなぁ・・。オレ達は、フライヤほど簡単に登れやしないぜ・・?」
しかし、しっかりと手を握る所があった。
「よし・・ここから登ってみるか!」
よじよじと昇り、フライヤの所へといった。
「おい、お前たちも登って来いよ!」
「・・・ぼくは・・高所恐怖症なんだ・・!」
「・・・。分かった。どっかから隙間を見つけて入って来いよ?」
「じゃあ・・私と一緒に行こうか?」
「う・・うん・・」
------
「だれかいる・・!」
フレア・ビビと別れたジタン・フライヤはすぐさま大きな像に隠れる。
「素晴らしい雨じゃないですか、まるで…… そう!まるで我々の勝利を祝福してくれているかのような……」
「おお、クジャよ! お前のくれた黒魔道士達のおかげで、ブルメシアは既に征服したも同然じゃ!
だが、肝心のブルメシア王の姿が見当らんのじゃ!ブルメシア王を仕留めなければしつこいネズミ達は、また勢力を盛り返すだろう・・!どうなっておるのじゃ、ベアトリクス将軍!」
はっ と言う可憐な女。
(あれがベアトリクスだ。かなりのやり手だぞ・・?)
こそりという、フライヤ。
「ゾーンとソーンには、ブルメシア中をくまなく捜させております。私も直ちに捜索に参加してまいります」
「無駄なんじゃないかな?」
「?」
「知ってるかい? ネズミってのは地震が起きると集団で引越を始めるんだ。今度は砂のお家にお引っ越し・・。
文字通り、尻尾を巻いて逃げていったよ、王様も一緒にね。でも・・・」
振り向きにこやかに言うクジャ。
「ここに2匹、ネズミが現れたら君にとっても面白くなるだろうね?」
(まずい!)
「滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め 始原の炎甦らん・・・」
しかし、クジャの詠唱とは違う声がその場に広がったのである。
それはまるで獣のような低い男の声。
「我が血と名を持って 火よ ここに命ずる・・・」
二つの火の塊は交錯する。
「「フレア」」
フレアの「フレア」。
クジャの「フレア」。
しかし、火の力の違いはさすがにあったらしく。
「くっ・・」
クジャが膝をつく。
「何とか間に合ったみたいだな」
そういったのは、フレアではなく 違う存在だった。
そう。獣の力 サクリティス。
獣の瞳が煌きを放ち、獣の耳は全てを聞く。
「・・・・フレア・・・?」
その声の主、ジタンを睨み付ける瞳はとても冷酷だった。
とても・・あのフレアの瞳には見れなかったのだ。
「・・・お前はいったい何者だ!!」
己の魔力とは違うこいつは一体何者だろうか・・?
「雨は、悲しみと慈悲を与えるものだ。お前達の勝利など無に等しい」
「なっ・・」
クジャは驚愕する。
この少女の気配は無かった筈なのに・・聞いていたのか!?
「フレアー・・・」
後ろからパタパタと付いてきた影。
「・・?お前は・・確かビビと言ったな」
「・・う・・うん」
「戯言はここまでです」
全ての気楽さがその言葉で終わりを告げる。
「百人斬りの異名を持つ私にとってお前達など、虫ケラに等しい・・しかし・・そこの女」
ベアトリクスはフレアを指差す。
「実に興味深い。しかし、邪魔をするなら今ここで切り去って上げましょう」
「こっちは興味ないな」
「!?」
「だが、お前こそ どの力にモノを言っているか分からせてやろうか」
出来たてのオリハルコン製の剣を持ち 構える少女。
「我が名は、サクリティス=リヴァイア・・・肉体フレア=リヴァイスの力の源だ・・」
------
剣と剣が混ざり合い火花が散る。
「ストックブレイク!!」
ベアトリクスはそう言って一気に切り落とそうとするが、見切られているかのようにかわされている・・?
「覇斬」
相手は受け身の姿勢を取っているのにもかかわらず、一気に剣で叩きつけるサクリティス。
しかし、以前からあった「離散」の力は無かった。
「・・・・・」
自らの剣を見、苦笑する。
抵抗しているのだ。もはや活力が無いと思われる肉体の抵抗。
しかし抵抗した所で何の役にも立たない。
そう思った時 心の中で ぎしっ という音がした。
「・・・そろそろやめないか?」
「・・・?」
「お前も限界だろう? 私も限界だ。残念ながらな」
「・・っ!! まだだ・・まだ私は-」
その言葉を遮り、発する言葉。
「去れ」
低く獣が唸り声を上げるかのように、その場に鳴り響く言葉が一言。
その一言で十分だった。
「もう一度言おう。去れ。ここは汝の力を発する事も出来ず。
孤独と悲哀が重なり 抵抗も弱くなり 力はそれに対し微笑むだけの虚空の場になるぞ」
その言葉をどう心の内にとめたのか。
それはベアトリクスにとっても、クジャにとっても、勿論ブラネにも分からなかった。
しかし、その言葉だけで退散しなければならないというのは分かった。
理由はわからないが・・。
そうして後ろを振り向き・・・3人は去っていった。
「今のは一体・・?」
そう疑問に思っていたのは寧ろ味方のほうだったりする。
「な・・なぁ・・フレア-」
恐怖に襲われながらも、ジタンは中身が変貌しているフレア(サクリティス)に声をかけた。が。
「・・・」
何も言わず、寧ろ睨んでくる・・殺気。
「・・えっと・・今のは・・」
「言霊だ」
「へ・・」
そう言って、ブルメシアの出口へと向かうフレア。
「おい・・ちょっと待て-」
「お前達など興味も無い。私は一人で行く」
「何処へ・・?」
「さぁな」
それに・・・「お前達には関係無いだろ」
そう捨て去り、ブルメシアの霧へと消えていこうとした。
「フレア・・・一つだけ聞いてもいいか?」
「・・・」
振り向く殺気のような瞳。
「リーズはどこにいったんだ?」
心が疼く。
「それに、俺 ダガーを探してるんだよ」
また心が疼く。
「だから一緒に」
また心が-。
「やめろっ!!」
そう言ってサクリティスは剣を抜き、構え、ジタンに向けて攻撃を仕掛けた。
ぎぃんという剣と剣がぶつかる音が雨の中、空しく響く。
(お前にも教えてあげたいんだよ)
「やめろ・・・」
(人と人とのふれあいの中に暖かさがあることを)
「やめろ・・・!」
(それに気付いたらお前はもっと・・強くなれると思う・・だから-)
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
絶叫の中、剣を振り乱れ。
そして・・・。
きぃん。
サクリティスが握っていた剣が床に刺さり落ちた。
「・・フレア・・」
ざぁざぁ降っている雨の音だけがその場を静かにさせる。
「・・・私の・・心は弱いな・・」
「・・・・・」
ぽつりといった言葉は哀愁が漂っていた。
「ずっと 人を恨み 信頼すらしていなかったから・・」
そして、己の経験の罪を言葉に託す。
「後悔しても遅いと思う・・だったら今何をすべきか」
「私もやっと目的を見つけたのじゃ・・お前とはあまり変わらんよ」
「俺も手伝うから、な! 甘く見るなよ?」
3人の人々に励まされ・・ついに顔を上げるサクリティス。
「・・ありがとう・・。私の名は獣の力 サクリティス。 サクでいい」
------
「そういえば、ブラネ達は砂の家とかなんだかいってたな・・。その 砂の家はどこか・・フライヤ知ってるか?」
「ああ・・それはいつも砂嵐に隠れているクレイラという樹じゃ」
「じゃあ、目的地はそこだな!
行くぞ!サク!ビビ!フライヤ!」
クレイラにむけて歩き始めた一行。
しかし、その後 最悪な状況に化すことを今だに誰も知らずにいた。
それは運命の悪戯のように・・旅人達を迎えたのだ。
しかし、クレイラを守りし砂嵐は 彼らが来たとき 消滅寸伝の危機におちていた。
「なぁ、サク」
ざくざくと音がする中、声をかけるジタン。
「・・?」
サクは振り向き、冷静な面持ちな顔をする。
「言霊・・だとかいってたよな?
それってどんな効果があるんだ?」
「・・・悪しき心を持つものこそ、怯えには敏感だ。
それを言葉で表したものを言霊と呼ぶ・・」
「・・へぇ・・。俺にもできるかな」
その言葉をよそに、サクは歩き続けた。
ジタンを無視して。
「ひゃあ・・」
そう、声を上げたのはビビだった。
目の前には小さな砂地獄が集中していた。
「・・これをどうやって飛び越えろというんだ・・」
「・・・・飛び越えることはできるぞ?」
そうサクが言った刹那。
それは、獣のように。
それは、風のように。
飛び越えていた。砂地獄を。
「え・・」
「ほう・・ならば私でもできるな」
そう言って、フレイヤもひゅんひゅんと飛んでいく。
「ちょ・・俺はどうやって飛べば-」
おろおろとしているジタンを見くだかしたような一言が飛んでくる。
「自力で飛んで来い」 とサク。
確かに、それはそうだ・・・が・・。
「お前が飛べずに誰が飛ぶんじゃ」とフライヤ。
そりゃあ・・・俺飛べることは飛べるけど・・。
だああああああ。もう!
「わかったよ!飛べばいいんだろ 飛べば!!」
そう言って飛んだ。
高く高く舞い上がり・・そして・・?
一気に地面へと落ちていった。
「いってぇぇぇ・・」
「後は・・ビビだけだが・・」
そう言ってサクはため息をした。
フレアの記憶によると ビビは高所恐怖症。
そんな彼がこれを飛び越えるのは不可能だ。
しょうがない。
「私が行くとするか」
行きのように帰りも飛べばいい。
ただそれだけのことなのだから。
「ご・・ごめんね僕・・」
「黙っていろ。舌を噛むぞ?」
そう言ってまるで慣れたかのように砂地獄と砂地獄の間の地面を蹴って行く。
こうして、なんとか砂地獄を乗り越えたが。
「俺もビビのように抱いてくれればよかったのに」
「誰がやるか」
一方その頃・・・リーズ達はというと。
「なぁ・・あのおじさん なんだか怪しかったんじゃなかったか?」
一人の兵士が夕焼けの空を見、そう言った。
「まぁ・・そう言われれば」
「・・・でもさー。お前の大好きなあの臭い-」
そう言おうとする前に ばしっ となぐられる兵士。
「臭いとか言うな!あれは神聖なる食物なんだ!!あのおじさん、それを知っていたからこそ!!」
「はいはい・・」
ある一人の男性が南ゲートを抜けようとしていた。
「お前、見かけない顔だな?」
「こんなところに何しに来たんだい?」
用紙を差し出し、見せる男性。
「南ゲートの修復作業員の募集に応じてやって来た。住み込んで働けると聞いて一通りの荷物を持って来たのである!」
「そりゃ助かるねぇ! この間の事故からずっと修理してるんだけどまだ動かないんだよ」
「そうであったか・・」
「あんた丁度いいときに来たもんだな」
「規則なんで。 その荷物、検査させてもらうぜ」
渋々 男性は5、6歩下がった。
「かてぇな・・お・・・な・・・・」
「どうした-」
目の前には前々から二人が良く話題にしていた代物が。
しかし、それは話題ではなく口喧嘩のような気がするのだが。
「ぎ・・ギサールの野菜のピクルス!!く・・臭・・」
「臭いとか言うんじゃない!それは神聖なる食物だ!!」
「・・・はぁ・・」
いつもいつもそう言われ 相棒に圧倒されるのだ。
そこまで何故、ギサールの野菜に萌えてるのか・・。
「わかった、わかった、もう行っていいよ・・・アレが好きな人、たくさんいるんだね・・」
そう言いながらゲートパスを渡す兵士。
男性の後姿を見、呆れ果てていたのであった。
(姫様の名案・・最高であった!)
そう言いピクルス入りの袋をゴソゴソさせる。
小さい鳥がスタイナーの方に降り立った。
小さい鳥は冷たく、全体的に凍り付いているかのようだ。
「無に値する変化よ・・我の前に解き放たん・・」
小さな鳥が呪文を呟くと・・?
「・・・ふ~。風が気持ちいい!・・・でもこの臭い、頭が割れそうだわ」
その袋からひょこっとでてきた少女。
「ありがとう!リーズさん!」
小さな鳥に対し、そう言い放った少女-否ダガー。
『いやぁ・・それほどでもないですよ?ただ・・・・・・・』
「「ただ?」」
恥ずかしそうに呟くリーズ。
『・・戻らないんですよね』
「は?」
「今・・なんと?」
『元の姿に戻らないんですよ』
その言葉にどぎまぎする二人。
「・・そ・・それはそれで・・」
「・・それって魔法とかは」
『魔法は使えますから大丈夫です!』
小鳥状態のリーズは微笑させる。
(元の姿に、戻らないとなれば・・フレア・・サクになったのですかねぇ・・)
あれになるのは緊急事態の場合のみ。
霧耐性のネックレスをつけていてもそんな状態になると・・。
(これは・・バッシュも目覚めるのは早いかもですね・・・あまり好意的じゃないけど・・)
まぁそれはそれで、あれはあれで。
『じゃあ行きましょうか!』
「出発進行~~っ!!」
車両は静かに進み出した。
これに乗って直通でアレクサンドリア領土だ。
この時、ちょうどよくリーズは元の姿に戻っていた。
「・・ちょっと気が抜けたみたい。」
「・・それはそうでありましょう。リンドブルムからここまでの旅、楽ではありませんでした。モンスターとの 戦いにおける、白魔法での助け。チョコボの森での図々しいモーグリに対する毅然たる態度。極めつけはあのピクルスを用いた作戦であります!!姫様の行動力には感服-」
「・・スタイナー、その呼び方、直さないと駄目ですよ~?」
「・・あなたは何もしなかったでしょう?リーズ殿」
否、リーズはもはやこのルートの前々まで空を飛び観察していた。
どのように行けば簡単にアレクサンドリアに着くか。
「時間帯、交通手段全てを使い、トレノへ行けば ある人に会えるんですよね?」
「ええ・・・」
それこそが最大の山場。
それこそが唯一王宮に繋がっている道。
「トット先生に会えれば、すぐに王宮へ入れる!」
その時 リーズが頭を抱えた。
「・・・・っ」
まだ出てくるのは早い・・!
『多分、リーズ あいつが目覚めたからよ?』
その声にびくりとなる。
まさか!!
『私とサクリティス・・私たちは相反そして惹かれる生命・・』
ふわりと風がなびいた。
『ごめんなさい・・でも・・あんたたち二人とももう限界よ?』
知ってます・・。でも・・。
『大丈夫。後の事は私たちに任せて寝てなさいって』
・・・殺さないで・・。
『そんなこと、サクでもない限りしないわよ!ささっ 早く!』
「リーズ殿?」
「リーズさん・・大丈夫?」
その声に惹かれ、目覚めた『氷の天使』。
「大丈夫に決まってるじゃない」
「「・・・・へ?」」
「あ~・・なんか私変なところでテンション上がっちゃった?」
これはリーズなのか?
こんなハイテンションなリーズを見たことが無い二人はおろおろとするばかり。
「・・・あのー・・」
「はい?えっと・・たしかダガーさんだったよね?」
「・・記憶喪失・・?」
「改めて初めましてっ!私 リーズの中にいたヴァシカルっていうの!バッシュって呼んでね」
「・・・二重人格?」
「・・違うわよ・・。ただ、リーズの負担が大きくなったり 危機が迫ったりしたら私が代わりに負荷するっていう感じね」
「ということはリーズさんは-」
「ぐっすり眠ってるわよ。あまり眠っていなかったみたいね」
「はぁ・・」
やる気を見せる『影』の存在。
それはちっぽけに見えても真実は大いなる存在ガーディアンフォースと表記されている。