聖地というのは特定の宗派、信仰者にとっての本拠地や拠点となる寺院や教会や神殿のあるところ、またはその宗教の創始者に纏わる重要なところ、あるいは霊や魔や魂の集まるところともされている。
大体そういったところに巡礼するのが主なのだが・・・このコンデヤ・パタはそうではなさそうである。
聖地とは誰が云い始めたのか。
そして聖地とはいったい何か。
「そういえば聖地にいくにはどうすればいいのか分かるのか?」
ジタンの素朴な疑問にシガンはこくりと頷いた。
「分かる。まぁ聞いただけの知識だがな。『神前の儀』というものを受けなければ聖地への道をあけてくれないらしい」
「『シンゼンのギ』ってなんだ?」
「それはまだ私にも分からない。 天守のカツミという神主が詳細を知っているらしい」
「そこまで分かってるのに何で聖地に行かないんだ?」
「それよりも黒魔道士という種族に興味を持った。それだけだ」
「で、今はお姉ちゃんが調子悪くなった『霧』を徹底的に調べるためだけにいくってこと?」
フレイアはイライラして膨れっ面をしながら言った。
「・・・そこまでフレアがいいのならお前だけでも行けばいい」
「いやだ。いくならおじさんも無理やり引き摺ってでも連れて行くから」
ぷいっと後ろを向くフレイア。 シガンはただただ溜息をつく。
そんな二人にお構い無しにジタンは神主をすでに発見していた。
「おい、あんた。・・・もしかして神主さん?」
「いかにも。ワシが神主の天守のカツミだド」
「・・・何でこんなところでうろうろとしているんだ・・・?」
そう。 神主はずっと同じ所に留まっていたのだ。
そこをずっとうろついているということは、何の目的もないということが目に見える。
そんなジタンに対し「色々と神主は悩み事が多いのだド」と躊躇う神主。
「まぁ、それはいいとして『シンゼンのギ』ってどんなことをやるんだ?」
「一人の男と一人の女が神に祝福され夫婦になり、聖地を臨む巡礼の旅に出るために執り行う聖なる儀式だド」
「まぁ結婚式と新婚旅行ということか」
「・・・?? お前の言っている『ケッコンシキ』というのはどういうものかは分らんドも、多分そんな感じだド」
「じゃあその儀式を受ければこの村の先の聖地へ進めるって事?」
とダガーが話に入ってきた。
「らしいな。 と、そういう訳なんだけどさ・・・どうする? 結婚する?」
「私は-」
どうするかダガーが迷っている最中に未だに脹れっ面なフレイアとそれを引き摺るシガンがきた。
「どうだ? 聖地に行くためにはどうすれば良いのか分かったか?」
「ああ、それなんだけどさ・・・」
と儀式のことをジタン言おうとした刹那。
「私、シガンさんと儀式を受けるわ」
とダガーがはっきりと言った。
何が何だかわからないシガンは「・・・は?」というしかない。
それをみてカツミは興奮気味に「お前達、夫婦になるド!?」とシガンをさらに追い詰める言葉をさらりというもので、
「夫婦・・・だと?」とシガンは目の前がくらりと揺らいだ。
「本来はドワーフ族だけが許される儀式だドも、実は最近トンと夫婦になる者がおらんで99組で止まってしまっているのだド。・・・この際構わんド、100回記念『神前の儀』を執り行うド!」
だんだん話が大きくなってきてジタンは「どういうことなの・・・?」とうろたえるばかり。
そんなジタンに対し「じゃあ私とジタンで儀式やっちゃおう」とフレイアが言ってきた。
「え・・・は・・・?」
ジタンはあまりの展開の早さと展開が恐ろしい方向にいっていることにについていけないまま、神前の儀へと臨む事になってしまった。
------
「山樹におわします、八百万の神々と 陽の元光と共にこの者ド二人の旅立つこの地に・・・」
と詠唱のような言葉を天守のカツミがいっていたのだが、ジタンはその言葉すら聞いておらず、
(どうしてこうなったんだっけ・・・。たしかこの村の向こうに進むためには儀式を受けなきゃいけなくて・・・儀式を受けるのは男女二人で・・・)
と先程のやり取りを頭の中でぐるぐると思い出してみた。
* * * * * *
「待て・・・何が何だか全く分からないのだが・・・」
「おじさん、結婚だよ 結婚」
「け・・・」
本当は「結婚」とはっきりと言いたかったのだろうが、その言葉すら言えないほど絶句していた。
「でもやらないと先に進めないでしょ?」
「だからといってなんでこいつなんだ!」「だからといって何故この私なのだ!」
二人の男ははもりながらもそう言う。
「まぁおじさんはカッコいいからね、仕方ないよね」
「お前はビビと結婚でもすればいいんじゃないか? なんで俺が・・・」
「こんな姿恰好でも中身はれっきとした大人だよ、ジタン。それすらも分からない?」
その小さな子供のような中身は何千年も生きているといった真実を もしジタンが知ったらどんな顔をするのだろうか・・・。
「わかったよ・・・わかりましたよ・・・」
とジタンがあきらめる。
「では始めましょう、シガンさん」
といい、二人は出て行ってしまった。
まだ戸惑っているシガンを引き摺って。
* * * * * *
そんなことを思い出しながら・・・ちらりと隣を見た。
(そりゃあ・・・この先に進むためだろうけどさ・・・)
小さなフレイアはぴくりと耳を動かして、なにやらご機嫌な顔をしている。
(二人の女になんだかすり潰された・・・というか・・・)
はぁ と少し溜息をついた。
(この際色々と聞いてみるのもいいかもしれないな・・・例えば・・・)
そんなこんなで儀式は無事に終わりを告げる。
「なぁ、フレイア。 お前たちがいうガーディアンフォースってなんなんだ?」
「ああ・・・守護神という意味だよ」
「守護神? 幻獣と何が違うんだ?」
「それ聞くならおじさんに聞いてね」
「なんで?」
「めんどくさいもん。おじさんなら・・・『いつか教える』というだけだけども」
それを「誤魔化す」ということなのだが・・・。
だが、もっと質問をしようとする前にフレイアは先に歩いて行ってしまった。
------
シガンとダガーも儀式が終わりそうになっていた。
とりあえず落ち着いたのか、シガンは密やかに色々と思い出していた。
(・・・結婚か。 もはややることもないと思ってたが・・・)
そう頭の中で呟き、亡き妻のシャシェを想った。
それはまだ『再生』が終わった世界でのこと。
光のエルフであったシャシェに一目惚れし無理やり連れ出し、その挙句結婚をした。
その時に光のエルフの一族に「シャシェを返せ」とも言われたが、帰すことはしなかった。
それどころかシャシェも「実は私も一目惚れでついてきた」と言い始めてしまい、結局シャシェは光のエルフたちに勘当され、二度と帰ることができなくなってしまった。
その時私はひどく落ち込んでしまったがシャシェはにこりと微笑み「私、あのエルフ族だけは大嫌いだったからいいのよ」となんだか慰めのような言葉をいっていたが・・・結局本当の所どうなのかさえもいうこともなく亡くなってしまった。
(そうして生まれてきたのが・・・あの子だ)
フレアのことを思い出した途端に 儀式は終わっていた。
「あの・・・聞きたいことがあるのですが」
「何だ? 妻子持ちに無理やり結婚させておき、感謝の言葉もないのか?」
「それはそれとしてありがとうございます。 ただ・・・リーズさんのことと貴方達のことで・・・」
「それは時がこればこちらから言い渡す。 だが、お前が聞きたいのはそれではないだろう?」
「・・・ええ」
「リーズは私にとっては数少ない識者だ。それ以外の何者でもない」
「でも・・・バッシュさんは・・・」
「ヴァシカルのことも知ってしまってたのか・・・全くあいつらと来たら・・・」
「別に私は誰にも言いませんけど・・・」
「いや・・・それでも時がこればこちらから伝える。 今はフレアのためにも『霧』の解明をしたい。 それではいけないか?」
「いえ、大丈夫です」
「今は一つの目的として動こう。 外でジタンとフレイアが待ってる。 行くぞ」
とシガンは先に歩いて行った。
ダガーはそんな色々と謎が深まるシガンの後姿を追いかけた。
* * * * * *
さて、いろいろあった挙句なんとか無事に神前の儀が終わるとあるドワーフが「関所にいる双子のドワーフ等の皆にも挨拶して来いだド」といい始めた。
「まだやることがあるのか?」と少しだけいらついているのかシガンがぶっきらぼうにいう。
「挨拶回りも仕来りの内だド」
「まぁまぁ、それでは新婚一行様の挨拶回りと行きますか」
「この村にいる間だけだよ、ジタン」
「分かってるよ!」
と4人でわいわいしていると・・・ジタンにビビがつんつんしてきた。
「ねぇ、ジタン。僕らはどうすればいいの?」
「ん? お前ら、俺たちの新婚旅行の邪魔をする気か?」
「ま・・・まさか置いていく気アルか!?」
「まぁまぁ、分かってるよ・・・。 うーん、とりあえず お前らもその儀式を受けちまえばいいんじゃないのか?」
「えっ!?」
無理やりすぎる注文に「うん、それがいい!」と自画自賛し、
「その間に俺たちは挨拶に行ってくるからな! じゃあな!」
と4人とも歩いていってしまったではないか。
呆然とする二人だが・・・その提案はすぐに現実になる。
* * * * * *
思わず見つめ合うビビとクイナ。
天守のカツミが儀式の言葉を行っていてもただただ無言。
だがクイナは一言だけ口を開いた。
「・・・ワタシ・・・幸せアルよ」
その言葉にびくりと震え上がりながらも「・・・ぼ・・・僕も・・・」と反射的に行った。
じりじりと近寄るクイナに退くビビ。
ある意味ビビが大ピンチの刹那。
大きな声が響き渡った。
「ドロボー!!」
* * * * * *
一方、無理やりな注文をした4人は挨拶回りをし、聖地への道の入り口であるところまでいっていた。
「じゃあ、旅立つとしますか」
とジタンが張り切った刹那。
「ドロボー!」という大きな声が聞こえた。
シガンが振り返ると、そこに小さな女の子とモーグリが走ってきた。
その小さな女の子はフレイア程の小ささで、角が生えている。
その女の子はそれまた小さなモーグリに対し、大声で叫ぶ。
「モグ、早く!」
「クポ~!!」
そんな二人にその場にいた全員が固まり、聖地への入り口の番をしていた二人は正気に戻り「待つだド!」と言っている。
「逃げられてしまったド・・・」
「この先には行けねぇ掟だド・・・」
「この先って人が住んでんのか?」とジタンは番人に言った。
「そんな筈はねぇだド・・・あそこには人一人いない筈・・・」
「それを言える根拠は・・・聖地だからか?」
「うーん・・・それもあるけドも・・・。 あのちっこい二人組は何回か食べ物盗みに来ているだド」
「次こそは捕まえてみせるド」
「そうだド。 その勢いだド」
と番人の二人はお互い励ましあっている。なんというプラス思考。
そこに儀式を終えたビビとクイナがやって来た。
「お、儀式は済ませてきたのか?」
「う、うん・・・」
「ワタシのいるところで食べ物盗むとはいい度胸アルよ!」と言い、クイナはひた走って行ってしまったではないか。
「お・・・おい!!」
「さて、先に行くぞ」
「お先にね、ジタン」
とシガンとフレイアも歩いていってしまった。
「早く行きましょう」
「う・・・うん」
とジタン以外は全員ジタンを無視して歩いていった。
「なにこの冷たい面子・・・」
こうして、山道を進んでいく一行だが、そこには先程の女の子だけが崖から伸びている根に引っ掛かっていただけだった。
その女の子は小さく溜息をつく。
「こんな所に引っ掛かって、信じていたモグにも裏切られ、ここでさびしく死んでいくのだわ・・・。モグめ~・・・死んだら絶対化けて出てきてやるんだから!」
と先程の態度とは裏腹に因縁までつけ始めた。
そんな態度をしている女の子を一向は見つめていた。
それに気づいた女の子はごしごしと目をこすり、
「ああ、幻かしら・・・角のない人まで見える・・・。しかも尻尾まで生えて・・・」
「誤魔化そうとしても無駄だぞ」
冗談でももう少し空気を読んで欲しかったがシガンが冷徹にいった。
「キャー!!駄目よ駄目!!私なんて食べたって美味しくないわきっと!!」
と女の子は興奮したのか手足をばたばたさせた刹那。
安定的に女の子を支えていた根がぽきりと折れた。
その女の子を受け止めて抱きかかえたシガン。 そして丁寧に女の子の足を地面につけた。
「あ・・・ありがとう」
「・・・。 ふん、いくぞ」と行こうとするシガンの顔をフレイアが覗き見て、ニンマリとした。
「なんだ、フレイア」
「ううん、なんでもない」
そう言い、くるりとジタンの方向を向いて「大丈夫だよ、ジタン。恥ずかしくて赤くなっているだけ」
「フレイア・・・!」
本当に赤くなっているのか、いつもの白い肌も少し赤みが出ている。
それを見ていた女の子はジタンの服を引っ張る。
「あの人、シガンっていうの?」
「あ、ああ・・・。 で、君は大丈夫?」
「・・・大丈夫」
「怪我はない?」
「大丈夫ったら大丈夫なの! そこの青い服着た子と耳がとんがっている赤い子みたいな子供じゃないんだからね!」
その言葉にフレイアはぶちんと切れる。
「ちょっと! ちっちゃいアンタとか弱い私と一緒にしないでよ!!」
「失礼しちゃうわ! 私にはエーコっていう可愛らしい名前があるんだから!」
「こっちだって、フレイアっていう美しい名があるんだからね!!」
小さい同士何を言っているのか、と この言い合いを見ながらシガンは思った。
「キーキー言っているところ悪いが・・・そのエーコさんは何で盗みなんて働いたんだ?」
ジタンの言葉にはた、とエーコの体がストップする。 そして手をお腹に当てて・・・「お腹・・・すいてたの」と言った。
「はは、そりゃまた立派な理由だ。 まるでクイナのような・・・あれ? クイナは?」
先ほどから見かけなくなっていたクイナを探してきょろきょろするジタン。
「先に行っちゃったみたい。 何かを追いかけてたみたいだけど・・・」
「さっき私の友人のモーグリーを追いかけて行っちゃったの。 ・・・どうしよう、食べられちゃう」
「まさかクイナもモーグリーは食べないと思うけど・・・。 エーコの家はこの先なの?」
「うん、ずっと向こう。 たぶんモグは先に帰っちゃったと思う」
「ねぇ、この子を家まで送りましょ。 シガンさん」
未だに恥ずかしがっていて何もいえなかったシガンにダガーは振り、シガンは体をびくりとさせた。
そして溜息。
「仕方・・・ないな・・・」
「なぁ、フレイア。 なんでお前から見たら、フレアの親父さんが「おじさん」になるんだ?」
「うーん…。それはね…」
「うんうん」
「乙女のひ・み・つ!」
にこりと微笑むフレイアに対し、がくりと肩を落とすジタンだった。
「それよりもほらほら、出口見えてきたよ!」
少女が指差す先にはきらりと陽の光がさしていた。
その先は、思った通り外側の大陸であった。
辺りは「霧」が一切無く、遠くの方まで見通しの利く場所である。
「未開の地に来たわけだが…やっぱりここらにも住んでいる奴らはいるのか?」
「いるよ~。もうちょっと歩いていくとドワーフさん達が住んでいる村に辿り着くんだ。
そこにおじさんもいるから、まずはそこに向かおう」
ドワーフ達の住む山吹く里、コンデヤ・パタ。
のんびりとしたドワーフ達が暮らしている静かな村だ。
この村には若者が契りを交わすための祭壇があるという。
「こんなところまで来たけど、全然”霧”が出てないんだね…」
「それに…何だか変わった形の…村なのか、これ?」
「神殿か何かのようにも見えるけど…」
「おじさんが調べた所によるとずっと昔、ここは遺跡だったみたいで、そこにドワーフさん達が住み着いて今に至るみたいだよ?」
「建物も美味しそうな形アルからきっと美味しい物だらけアルよ!」
そう言い、クイナは食物を求めて村の中へと入っていってしまった。
「全く…あいつの頭の中にゃ、食い物の事しかないのかね」
「ジタンは女の子の事しか頭にないけどね!」
むっつりな顔つきで何やら怒った風にダガーも村の中へと入っていく。
「そう、その通りっ!このオレの頭の中はダガー、君の事で…!」
目の前にいるかと思いきや、ふとジタンが後ろを振り向くとダガーはもはや村の中に入って行った後。
ただただ、白けた瞳で見つめるビビとフレイアしかいなかった。
「…本日も進展無し、と…」
村に入ると、たくさんの陽気なドワーフ達が出迎えてくれた。
いや、寧ろ…。
「ラリホッ!」「ラリホッ!」
「な、何だぁ? こいつらは…?」
「ラ、ラリホ…?」
「ら、らりほ?」
ダガーとビビが面食らったまま言葉に答えると、村の中に案内された。
そう。ジタンとフレイアを残して。
「ちょ、ちょっと待てよ…!」
呆然としていたジタンだが、連れ去られそうな二人に驚愕してそのドワーフを止めようとした。
が、横からこそりとフレアが言う。
「ラリホは聖なる挨拶だから言わないといけないのがこのドワーフの里、コンデヤ・パタの掟なんだからにこりと微笑みながらジタンも言おう。ラリホッ!」
「…ラリホ…」
「むー、ジタン微笑んでない!」
「ら…ラリーホ!」
無理やりにぱりと微笑み、挨拶をするジタン。
「ラリホッ! 通ってええド!」
「ラリホッ!」
もう二度と、こんな恥ずかしいことはしないと自ら決意をしたジタンであった。
さて、先に村に入ったビビはというと。
「何だか…変わった人達だったなあ…」
とはいいつつも、結構なじんでいたようにも見えたのだが…。
ふと道具屋に辿り着いたビビはひょこりと品物を見てみる。
「あんれま!こりゃまためんこいのが…今日はお使いにでも来たドか?」
「あ、あの…」
「まあゆっくりしていっておくれだド」
(…この村の人って、ボクを見ても驚かないんだな…。
でもなんでだろう…「今日は」とか…まるで前に僕を見ていたような態度とか…)
* * * *
ダガーとフレイアは井戸端会議をしている奥様方のところにいた。
「そろそろウチのデンエモンも、嫁を貰わねばな」
「お前んとこのデンエモンじゃ誰も嫁には来てはくんねえドも。
何なら、ほれそこの客人なんてどうだド?」
「ん~~、なかなかの器量よしかもしんねえドもなあ……」
「あの…この辺に…」
「ちょっと聞きたいんだけど…」
「こんなにひょろっちい嫁じゃ『聖地』に旅立つ事も出来ねード。」
「んだド、んだド」
「誰もお嫁に来るなんて言ってません!! …ん?『聖地』?」
横にいるフレイアをじっと見るダガー。
「『聖地』っていうのはね、おじさんが調査したがっていた方角なんだけど…。そんなことよりも! シガンおじさんが何処に行ったか分からないの?奥様たち」
「んだなぁ。恐らくは…」
* * * *
ジタンが村を歩いているとビビが村人に取り囲まれていた
「どうした、ビビ?」
「あ、ジタン。この人達が…」
「この前貰った鳥の丸焼きは美味かったド!どうやったらあんなに上手く焼けるドか?得意の魔法で焼くドか?」
「それとこの前交換で貰った木の実もなかなか美味かったド! でも、何で今日はお前みたいなめんこいもんがやって来たドか?」
「…ビビの知り合いか?」
「ボクこんなとこ、来た事なんてないし…」
「そりゃそうだよなぁ…」
だが、それもすぐさま明らかとなった。
「あ、黒いおっちゃんじゃねードか!ラリホッ! 今日はまた珍しいもん売りに来たドか?」
そこに現れたのはとんがり帽子を被った…。
ビビとそっくりで、以前ジタンも見たことのある…。
「「!?」」
「いつもええ売り物持ってきてくれてありがとだド」
「……」
「おい、お前…」
ジタンが話しかけて、驚いたのか ぴゅーんと走り去っていってしまった。
「ま、待って!!」
「待てよ、ビビ!」
走っていったが、ダガーとフレイアに鉢合わせする。
「どうしたの、ジタン?」
「オレには何が何やら…。とにかく今はビビを追わないと!」
村の入口ではまた転んでいたビビを発見した。
「ビビ、さっきの黒魔道士は?」
「村の外に逃げて行っちゃった…」
「そうか…。いったい何処からやって来たんだ?まさかブラネ女王の軍が…?」
「お前達、クロマ族と知り合いドか?」
「クロマ族…?」
フレイアはきょとんとした顔で声をかけてきたドワーフを見つめる。
「そうだド、クロマ族達はよく南東の森から、物を交換しに来るド。ちなみにシガンというエルフもそこに行ったらしいド」
「この辺りに住んでいるってのか!?しかも…族って事は、何人も?」
「そうだドも。南東の森は、崖をぐるッと回り道して、東の方に行ってから入らねばなんねド。聞いた話によると『ふくろうの住む森のふくろうも住まぬほど奥深く』らしいド」
「どういう事だ…?」
「ねえ、ジタン。ボク、その南東の森に…行ってみる」
ビビがくいくいとジタンの服を引っ張りながら言った。
「わたしは構わないわ。何か手掛かりが得られるかもしれないし…」
「また新しい食べ物が食べられるなら、何処でもいいアルよ」
なんだかよく分からない理由でクイナも南東の森に行くのに賛成した。
「よし、南東の森に向かおう」
全員の賛成を得たジタンは南東にある「ふくろうが住まない森」へと歩いていった。
* * * * * *
南東の森には無数のふくろうが佇んでいた。
「可愛いなぁ~」
きらきらした瞳でふくろうを見つめるフレイア。
「おいおい、フレイア。『ふくろうも住まぬほど奥深く』に行かないといけないんだぜ?」
「はいはい、分かってるよ~」
「でも、結局どっちに行けば良いのかしら…」
「『ふくろうも住まない』というのなら、ふくろうが居ない方向へずっと行けば良いと思うんだ。ここのトラップは結構特殊なようだね。ヒントがないと一瞬で迷う「迷いの森」みたいなものになってるみたい」
「そこまで分かるのか…。哲学的だな」
「だって此処のトラップ、私たちが住んでいる「霧の森」と殆ど同じ性質だもん」
「「霧の森」??」
「エルフだって元々は人間達に見られてしまっては困る種族。だからこそ、森にひっそりと住んでその森にトラップをかけるの」
「へー」
そう言いながら一行は歩いていった。
ふくろうが1匹も居なくなった空間。
やせ細った木々が多いその空間にぽつりと黒魔道士が立っていた。
その空間は捻じ曲がり、その捻じ曲がった所から黒魔道士は入っていく。
いまだ、と言わんばかりに黒魔道士に気付かれないようにジタン達一行もその空間に入って行った。
ジタン達がその空間(村といったほうがいいのかもしれない)に入ると、そこにはたくさんの黒魔道士達がいた。
彼らはジタンの姿を見ると…?
「!!」
「ひゃっ!!」
「に、に、に……」
「人間だーっっ!!」
彼らは慌てて自分達の家へと駆け込んでいった。
「あ、待って…! 今の人達、見たよね!」
「あ、ああ。確かにビビと同じ-」
「喋ってた! 喋ってたよね!ボクと同じような人達がいるんだ!」
驚愕するジタンに対し、ビビははしゃぎながら彼らを追って後へと行ってしまった。
後から歩いてきたダガーとフレイアとクイナがきた。
「あれ…ビビは?」
「向こうに行っちゃったけど…いったい何処に…っておーい!」
ジタンの言葉に何の反応も無く、ダガーは奥へと歩いていく。
「村があるのコト、美味しい物があるのコト。これ即ち同じアルね!」
同じくクイナも嬉しそうに村を蹂躙し始めた。
「まったく、どいつもこいつも…」
「とかいいつつ、ジタンもすぐに色々と見たい人なんじゃない?」
「ああ、そうだ。 っておまえは…」
「それよりもおじさんいるかなぁ~」
さて、村の中では黒魔道士達が慌てふためいていた。
「人間が来たよーっ!」
慌てて家の中に閉じこもる黒魔道士達。
それを見て、ビビはちょっと気を落とすが、更に奥へと走っていく。
「待って、ビビ!! この村は一体-」
ビビを追いかけようとするが、その前にダガーは何かを見つけたようだ。
そう、それはお店のような場所の奥の奥にいた…。
* * * * *
村の奥はなにやら何かを観覧する為の場所であった。
その場所に立ち尽くしているのは先程よりも冷静にビビを見つめている黒魔道士、そして一人の男であった。
「なにやら誰かが来たようだけど、君の知り合いかい?」
黒魔道士はその男に問いかけた。
「恐らくは。 が、誰かを連れてきたようだ。 私の知り合いはエルフだからな。 無論人間ではない」
「おじさん!!」
「来たようだ」
ぱたぱたとフレイアが走っていく。
「シガンおじさん! やっと会えた! あのねあのね、沢山話したいことがあるんだ!」
「そうか…。 では、向こうで用件を聞くとするか。 説教と共にな」
『説教』という言葉にフレイアは激しく反応をした。
「せ…説教って…」
「勿論だ。 私と共にいたと思ったらどこかへと村を離れたそうだからな。 「あまり私から離れるな」と散々言った後に」
「う…それも含めて話すよ~。 だから説教はやめてよ~」
そう言い、男―シガンとフレイアはその場を離れた。
通り過ぎていくフレイアとシガンを見、ビビは「どうしたの? その人は?」と問いかけた。
「私のおじさん! やっと見つけたんだ」
「寧ろ逆だ。 こちらはどれ程お前を探していたのか…」
「ご…ごめんなさいってば!」
「でも見つかってよかったね…」
「うん! でも…。 あれ、ビビ?」
何も悩むことなく、ビビは先程シガンがいた場所へと歩いていってしまった。
「どうしたんだろう…ビビ。 何だか不安だよ…」
フレイアが不安がる隣でシガンは冷静にこう思っていた。
(そう思うのも仕方がない。 この村は…そしてビビという少年も…。
この村は機械の村。 そして機械達が集い、機械を作った人間達に見つからないように集った。
だが…それも時には負ける、か)
少し悲しげな顔でビビがいってしまった道を見つめるシガン。
「おじさん? どうしたの?」
いや、なにも とシガンは平常心で言った。
* * * * * *
「そうか・・・フレアが・・・」
フレイアの大体一通りの話を聞いたシガンは、ふぅ と溜息をついた。
「確かにフレアにしてみるとこの世界の環境は身体には似合わないかもしれないな」
「じゃあ、お姉ちゃんのところにいこう!」
「いや。まだフレアのところにいくわけにはいかない」
「でもでも! ガーディアンフォースが他惑星でチカラ使っちゃ-」
「それよりも『霧』というものに益々興味を持った。それにこの世界はアースのガーディアンフォースだけは特別だ。別に排除することもないし、ガイアにとっては利益そのものだろう」
「えー・・・じゃあ、このまま探索続けるの?」
「そうだ」
「珍しいよね、おじさんがお姉ちゃん放っておくの」
「放っておく訳ではない。『霧』というものを調査しに行くだけだ。それにジタンとやらが言っていたことが真実ならばこの世界には何かしらの因縁がありそうだな・・・実に興味深い」
いつものごとくあれこれ考えるシガンに対してフレイアは深い深い溜息をついた。
これだからおじさんは・・・。
「はいはい分かりましたよ。もう私は寝るよ、おやすみ」
そう言い、フレイアは少し固めの布団に包まり眠ることにした。
シガンはふと向かいの住人をすこし見物していることにした。
そう。ダガーとジタンを。
「ねえ、ジタン・・・ビビが出て行っちゃったけど・・・」
「気を利かせたんじゃないか?あいつもなかなか分かってきた・・・」
この村に来てからビビの様子がおかしいのは確実。だからこそ、ダガーは不安がっていた。
そんなダガーにジタンは、「そんなに心配しなくてもいいさ」と言う。
「あいつにだってあいつなりの考えがあるのさ。今まで一度だって・・・自分と同じような、それでいてまともに話せるような仲間にビビは、あった事がないんだぞ?」
「でももし…そんな仲間に酷い事を言われたり、苛められたりしたら?」
「そんな事を気にして仲間を作る奴があるか?そんな事を気にしてる奴を仲間と呼べるか?それに、もしかしたら、あいつも見つけられるかもしれないし・・・」
その言葉にきょとんとした顔でダガーは「見つける?何を?」と問いかけた。
「いつか帰るところ」
その言葉にぴくりとしたのはダガーだけではなかった。シガンはその言葉だけでフレアを少しだけ想った。
「いつか帰る・・・ところ?・・・ジタン、その、いつか帰るところって……」
「どうした? 眠れないのか? 何か昔話でもしてやろうか?そうだな・・・昔々、自分が何処で生まれたのか・・・そう、自分の故郷が何処なのか知らない男がいました」
「・・・ジタン?」
「その男は子供の頃から、自分の故郷を探したいと思っていました。自分の生まれた場所、自分の記憶の中だけの・・・」
「どうして?」
「ただ知りたかったんじゃないかな? 親の顔、生まれた家に自分についてまで・・・。
そしてある日その男は、育ての親の元を離れて故郷を探す旅に出る事にしました。
自分の記憶の中に微かに眠る、青い光を探して・・・」
「青い光・・・」
シガンがそう呟いたのを見て、ジタンは「知ってるのか?」という顔をした。
「いや・・・断言できないな。どんなものか、どんな状況すらも分からない」
「でも、それだけがその男の故郷の思い出だったんだよ。多分海じゃないかと-」
「その故郷は見つかったのか?」
「おいおいおい・・・あんたもせっかちだなぁ。さらには他人の話題まで入ってきて」
なにかイラっと来たのか「ならば外でするんだな」と因縁をつけた。
「・・・まあいっか。結局さ、見つからなかったんだよ。そりゃそうさ、手掛かりなんて光の色だけなんだから。それで男は戻ったのさ、育ての親の元へ。そうしたらその育ての親、どうしたと思う?」
「優しく迎えてくれた?」
「まさか! その男の育ての親は拳振り上げて殴ったんだ、その男の事を」
「どうして?」
「さあな。でももっとビックリしたのはその後さ。その育ての親は、殴り終わった後、ニカッと笑ったんだ。信じられるか? その男を殴った後にだぞ?
・・・でもな、その男はなぜかその笑顔を見て思ったんだよ。ああ、ここが俺の『いつか帰るところ』だ、って。
今でもその男は故郷を探してるが、その男には『いつか帰るところ』がある。だからビビも同じさ」
「ビビはこの村に残るのかしら」
「さぁな。それはビビの決める事さ」
それらの言葉を聞いてシガンは瞳を閉じていた。
(故郷・・・か・・・)
消え去ってしまった父母姉・・・。そんな悲しみの中、神獣に心を利用され 己の力の解放だけで一瞬で太陽を凍らせた。 もうそこは今でも己の故郷ではない。
だがアースに己の『いつか帰るところ』をつくってくれたのは妻のシャシェと娘のフレアだ。
------
ビビは墓場にやってきた。そこには288号が静かに佇んでいる。
まるでそこだけが時を止めているかのような・・・。
「やあ、また来たんだね?」
「あの・・・聞きたい事があって・・・」
「何だい?」
「えっと・・・動かなくなっちゃった人は・・・何人になったのか・・・」
もごもごと言うビビに対してふっと微笑んでいる・・・ような気がする。
「無理して僕らに合わせて言葉を選んでくれるんだね?君は分かってるようだ・・・生きるって言葉、そして死ぬって言葉も。・・・そう『とまってしまった』のではなく『死んでしまった』仲間達のこと・・・」
くるりと振り返り、288号は「お墓」を見つめる。
「もう7人になるよ、止まってしまった仲間は。多分僕らにはね・・・限られたときしか与えられていない。初めて仲間がひとり動かなくなった時、僕はもしかしたら と思ったんだ。まぁ、差はあるけども作られてからおおよそ1年で・・・僕らは止まってしまうらしい」
戸惑うビビに対して、ふぅ と溜息をつく288号。
「他の皆には言ってないよ。言ったら、僕と同じに気持ちになる」
「同じ・・・気持ち?」
「多分、怖いって気持ち。止まってしまうのは嫌だって気持ち。逃げ出したいって思う。でもね、僕らはこの村に来て物を作ったり皆で過ごしたり、チョコボを育てたり・・・それが嬉しいんだ、何よりもね。
怖いけど・・・この村に仲間たちと一緒にいられる時間が嬉しいんだ。君もそうじゃないのかい?彼らと旅をすることで生きてる、って事の意味が分かりかけてきた。だから・・・」
「ボクは・・・」
ビビはそこで言葉が詰まってしまう。
自分はここで黒魔道士達と一緒にここで最期の瞬間までいるか、それとも・・・。
* * * * * *
翌朝、ジタンとダガー、それにフレイアとシガンは村を出ることにした。
「えっとシガンさんですよね・・・。フレアさん放っておいて大丈夫なのですか?」
「あの子の隣にはリーズがいるのなら、当分の間は大丈夫だ。ただ、あの子の場合は悪化する恐れもあるのだが・・・」
「もしかすると『霧』が原因かもしれないってこと?」
「と、思ってるが分からないな。 どんな成分で創られているか見なければならない。それに・・・少しだけ調査をしたい場所がある」
「調査をしたい場所?」
「ああ、コンデヤ・パタで出入りを制限されている場所・・・『聖地』。 黒魔道士達が大陸の北西・・・『聖地』で銀色の竜を見かけたらしい」
「そうなんですか!?」
「クジャと名乗るものがそこに『霧』を送る源があると言っていたらしいが・・・クジャという奴はお前達の知り合いか何かか?」
「知り合いじゃないです・・・。でもきっとそこに行けば、手掛かりがあると思います・・・。そうすればお母様も・・・」
「そうだな、行ってみるか」
ジタンがそう言うが、一人足りないような気がする。
「あれ? そういえばビビは?」
「あいつは、残-」
残るのではないか、とジタンが言おうとした刹那。ビビが必死に「待ってー!」と言いながら走ってきた。
「この村の皆にね、頼まれたんだ。もっと自分達の代わりに外を見てきて欲しい。それでまた色々教えて欲しいって」
「ちっ、何だ。せっかくダガーと二人きりに-」
「なれなかったね、ジタン」
とジタンの隣で悪魔っぽい笑みを浮かべているフレイアがいた。
「何言ってるアルか。ワタシこんなとこに置いてかれたら飢え死にしてしまうアルね」
いつの間にか、クイナもジタンの隣にいた。
「そういやお前もいたんだっけ・・・」
「なんか悪いアルか?」
「いや、なんでもない。なんでもないよ」
「それじゃあ、行きましょ! コンデヤ・パタへ!そして、その先の『聖地』へ!」
6人はコンデヤ・パタへとわいわいと戻っていくのであった。
「匂いアルよ。カエルの匂いがするアルよ」
そう言いながらクイナはその大きな身体とは裏腹に、素早く走っていく。
「カエルはいいから外側の大陸への入口を探してくれよ。恐らくは此処にあるはずなんだから」
「カエルはこっちアルね!!」
目的のカエルのためにいざ!という気分なのかかえるにだけ目を奪われる哀れなクイナ。
「お、おいクイナちょっと待てったら!!しょうがないなぁ、全く…」
食欲豊富なのはいいが、しっかりと物事を探して欲しかったジタンであった。
クイナは茂みの中へとどんどん入り込んでいく。
突然何かの入口らしきところに出てしまった。
そこに立ち往生しているカエルが一匹。
「やっぱりカエルアルね!! 待つアルよ!!」
クイナはそう言い、ぴょーんとカエルジャンプをお見舞いさせるが、やはりそこはカエル。
素早く横の茂みへと入り去ってしまった。
「また逃げられたアルよ…」
残念そうにクイナは言う。
「それよりクイナ、カエルどころじゃないぜ」
そう。そんなカエルの話をしている場合ではない。
「見ろよ!これこそ俺達が探してた採掘場の入口…じゃないのか?」
「こんなの初めて見たアルよ。ジタン、ホントにココ入るアルか?」
「今更何言ってんだよ。ここから外側の大陸へ抜けられるかもしれない。さぁ、行こうぜ!!」
こうしてジタンは地下へと潜っていくのであった。
忘れられた道、フォッシル・ルー。
かつては採掘場として幾人もの鉱夫が中に挑んでいった場所である
だが、今ではその存在は忘れ去られている。
今でもまだ何人かは採掘をしているという噂がある。
その為、やけにまだ新しきランプ達がぶら下がっている。
中に入ると、空洞のような小部屋があった。
ジタンは覗いてみるが暗くてよく見えない。
刹那。
「な、何だ!!」
突然その小部屋から巨大な機械が襲いかかってきた!!
どうやら罠が仕掛けられていたらしい。
「冗談じゃねぇぞぉー!!」
ジタン達は必死で逃げるが、それでも尚その巨大な機械は止まることがない。
幸いか不幸か、その道のりは常に直進。
だからこそ人間には幸なのだが、その巨大な機械も速さを増す。
誰もが「一体何処まで逃げれるのか」と全速力で走りながら考えていた時だった。
ひゅん、となにか炎のような玉がその機械と衝突した。
その衝撃で、ジタン達はなんとか次の空間に入り込めた。
「危なかったな…」
ホッとするジタン達だが、そんなこともしてられない。
「やれやれ、思ったより役に立たなかったようね。」
「誰だ!」
その人物はダガーを見て、にやりと微笑んだ。
「捜したわよ、ガーネット姫」
「ど、どちら様?」
その美貌に驚愕しながらも、でれーっとなるジタン。
(鼻の下伸ばさないでよ!)
「ハイ…分かってます」
「私はラニ。ブラネ女王の命令でガーネット姫を捜していてね」
「…アレクサンドリアに戻るつもりはありませんよ?」
「生憎、用があるのはガーネット姫じゃないのよ」
「…どういう事だ?」
「ガーネット姫が城から持ち出したある物に用があるの」
「!!」
「返してもらいましょうか! あればブラネ女王の物ですから」
「…そこまで聞かされたら、返すわけにはいきません」
「やれやれ、聞き分けがないわね。さっきのようには逃げられないわ。素直に返した方が身のためよ。さ、大人しく出す物出してちょうだい!」
「お母様がそんな命令するなんて…」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ! さぁとっとと出しな!それともここでくたばりたいの?」
「嫌だと言ったらどうしますか?」
「バカね。決まってるでしょ!ペンダントを渡して楽になりなさい!」
そう言うとラニが襲いかかってきたが、ラニの後ろからあの時の「炎の玉」がひゅんと振ってきた。それはラニの背中に見事に命中する。
ラニは後ろを振り返り「な…何をする!」と怒りに満ち溢れた。
丁度ランプの光が差し込んでいないところに人がいるのか、ジタン達の場所からはそれの正体は見ることが出来ない。
「この…ガキが!!」
そう言い、ラニはそれに近づく。
だが、そこが丁度凸凹になっていたのか。
「ぎえっ」と哀れな悲鳴を上げてそこに躓き倒れた。
「ガキ」というからには少年か少女かどちらかであるだろうが、その子はすぐさまぱたぱたと走っていった。
「あ…あいつは…」
その後姿を目にし、ジタンはその子を追って走っていく。
「ジタン!!待って!」
そう言い、ダガーとビビ クイナも追いかける。
…哀れなことに地面に寝そべるラニを踏みつけて。
「お…覚えてなさいよ!!この復讐は絶対してやるからね!!」
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その少女は暗い洞窟の中を走っていた。
何故暗闇でも転ぶことなく走れるのか…追いかけているジタンは不思議に思った。
だが、その速さは街中にいる幼女と同じ程なので、簡単に少女の手を掴むことができた。
「は…放してよっ」
「お前…やっぱり…」
暗闇でも、何処かで見たことがある顔だとは思っていた。
思っていた、が…。
「ジタン、どうしたの-」
慌ててダガーとビビ、そしてクイナが駆けつける。
「それが…こいつ…」
「放してってば! 大体あんた達を助けたのは興味本位って奴からなんだから別に良いでしょ!?」
「あー、煩いなぁ。少しぐらい黙ってろよ」
「だったらその手を放してよ! そうしたら少しは黙ってあげるもん」
ぷい、と暗闇の向こう側へと少女は向いた。
「に…似てる」
「確かに…フレアに」
フレア、という単語に少女はぴくりと耳を動かし 問いをジタン達にかけてみた。
「今…あんた達フレアって言った?」
「あ…ああ、そうだけど」
「あんた達はお姉ちゃんの知り合いなの?」
ぐい、とジタンの服を引っ張った。
「ってことはお前はフレアの妹…なのか?」
少女はこくりと頷いた。
「私、フレイア=リヴァイスっていうの。お姉ちゃんの知り合いならお姉ちゃんがどこにいるか、分かる?」
「知ってるけど…」
そう言い、ビビは俯いた。
* * *
「そうだったんだ…。私達が色々と探索している時にそんなことになってるなんて…」
「でもお前の姉は生きてるんだ。それにリーズも一緒だしな」
俯いているフレイアに「だから元気出せよ」と声をかけ、ぽんと小さな肩を叩いた。
「リーズさんが一緒だと今の所、大丈夫だけど…。おじさんに早く報告しに行かないといけないなぁ」
「…おじさん?」
ダガーの問いに、こくりとフレイアは頷いた。
「うん、お姉ちゃんのお父さんのこと!」
「ということは、やっぱりこの採掘場を抜けたら大陸があるのか?」
「うん。私、そこから来たもん。でもここから結構あるよ?」
「案内…お願いできるか?」
ジタンの言葉にぱぁ、と花が咲くかのようにフレイアは微笑んだ。
「うん、まっかせてよ!」
そう言い、ぴゅー と口笛を吹いた。
刹那。
どどっと押し寄せる虫達。
「ガルガント!? こんな所にいるなんて」
「しかもこんなに…」
「うん。この子達は精霊の媒体として生きている存在だから、私の言うことを聞いてくれる優しい子達なんだ!」
そう言い、ガルガントを撫でながらフレイアは自慢をする。
「この子達はこの洞窟の全てのルートを知ってるから、すぐに洞窟抜けることが出来るよっ!」
「そうか…。よーし!」
そう言い、ジタン達はガルガントの背中に乗り込んだ。
目指すは…出口と神秘なる謎に包まれた大陸。
西に広がる大きな沼。
そこにはク族という種族が住んでおり、その種族は食に生きがいを求めていると言い伝われている。
特徴は大きな体とその長い舌。何故か皆コックの帽子を被っており、食べられる物ならなんでも食すある意味凄い暴食者である。
そしてその種族とも思われる人物はその沼にいた。
「腹減ったアル」と呟きながら。
「ここが噂のク族の沼ですか~」
その広さにリーズは驚いた。
リーズとフレアの故郷アースは森が陸地の大半を占めており、沼地など小さなものしか見たことがないのだ。
「色々と冒険してきましたが、こんな巨大な沼地はみたことないですね~」
「それだけじゃないぜ? ここには大量のカエルが住んでいるんだ」
そう言うとジタンは面白半分にカエルを捕る。
そんなジタンに「ジタン後ろ!後ろ!」とビビは大声で言う。
ジタンは振り返り、ぎょっとした。
滴り落ちるはその者の唾液。
見つめる先はもちろんカエル。
「カ、カエル持ってるアルね!そのカエル、美味そうアルね。ワタシ、カエル大好きアルよ」
「あ、あんた何だよ?」
「ワタシ、アルか?クイナというアルよ」
「クイナ、このカエルが欲しいのか?」
「欲しいアルよ。欲しいアルよ。」
手をぱたぱたさせアピールするクイナ。
「…じゃあやるよ。別に俺はいらないしな」
ジタンは手足をジタバタさせている可哀相なカエルをクイナに渡す。
さっとクイナはもらい「貰ったアルよ! 返さないアルよ!」と言い放つ。
「…いや、逆に返さなくて良いよ」
はぁ、とジタンは溜息をつきムシャムシャと食べているクイナを見つめる。
「クイナよ、カエルを人から貰うようではお前もまだまだアルな」
食べ終わったクイナはその声で振り返った。
「クエール師匠!」
「クイナよ、このカエルばかり捕まえていては食の道を究めるのは難しいアルよ」
「でもクエール師匠。ここのカエルは最高アルね!何処に行っても、ここ以上のカエルなんか見た事ないアルよ」
そんな微笑むほどのマイペースなクイナの言葉を聞いて「アイヤ~!!」とクエールは叫ぶ。
「ここのカエルだけで満足してるとは…。お前はまだまだ食の道は遠いアルね。世界は広く、食せるモノは数え切れないアルね。勿論カエルも世界中にいるアルよ。ここだけではなく、他の地も訪れ、世界の食を知るアルね」
「他の世界アルか…。その発想は無かったアルね。ここより美味いカエルがいるアルか?」
こくりとクエールは頷いた。
「勿論アルね!! ワタシ達ク族は大好物のカエルを食せばとても成長出来るアルね。我々ク族の棲んでいた地が外の世界にもいくつかアルよ。それぞれの地のカエルを食せば、お前にとっての食の道がきっと見えてくるアルね。旅をしながら、ク族の沼を探すアルよ」
「分かったアル。早速旅立つアルね!」
やる気満々になったクイナは自分の家へと戻っていく。
「そうでした。クエールさん、ここら辺でエルフの子を見かけませんでしたか?」
「見かけたアルよ。今はワタシの家で眠り続けているアル」
「…なんですって!?」
* * * *
クエールの家は沼地の中心に建てられていた。
その布団で眠っているフレアをリーズは見つめる。
はぁはぁ、とフレアの呼吸は乱れている。
リーズは頬を触れてみた。
「…熱があるようですね」
「沼で気絶をしていた所をワタシが見つけたアル。それからずっと呼吸は乱れ、熱はどんどんとあがるばかり…。一体どうすれば良いのか分からなかったアル…」
「ご面倒、お掛けいたしました」
ぺこりとリーズはクエールに対して頭を下げる。
「あいや~。別に大した事してないアル」
リーズは思い詰めた顔でジタン達を見つめる。
「ジタン達は先に行ってください」
「リーズさん…」
「私は最愛なる相棒としてフレアの看病に集中したいんです。本当は一緒に行きたかったんですけど-」
「大丈夫です。貴方とバッシュさんのお陰で私ようやく吹っ切れました。しっかりと自分の身とチカラのコントロールしていきますから!」
「分かった。ここで一時お別れだ。さよならなんて言わないからな!」
「僕もリーズの分まで頑張るよ!だからリーズも」
リーズは微笑み「ありがとうございます、皆さん」と言った。
「旅の方、このクイナにも、いろんな世界の食を見せて欲しいアルね。食べ物のあるところなら文句言わないアルよ」
ジタンは恐る恐るクイナを見つめた。
だが…嫌とは言えない、寧ろ言い難いムードになっていた。
「よ…よし分かった!俺達と一緒に行こうぜ!」
「ここよりも美味いカエルが食えるアルか?」
「…まぁ、カエルより美味いのだって世の中にはいくらでもあるさ」
「カエルより美味いアルか!? それならついてくアルよ!!」
クエールとジタンは はぁ、と溜息をついた。
私の近くで泣いている少女がいた。
その子はボロボロの姿だった。
一際輝いていたのは、緑の髪と瞳。そして胸にまるで「押し込まれた」ような黒い結晶体だった。
すぐさま、私はその子が「リーズさん」だと直感した。
声をかけようとした途端。
「どうしたのですか?」
綺麗な風のような声で、少女に話しかけてきた人がいた。
金色の瞳と長い髪をきらりと光らせて、白いローブを着た男か女か分からない人。
「私、また捨てられちゃう・・・。あの時のように「化け物」って言われて捨てられる」
「いいえ、貴方は「化け物」ではありません。それに貴方は最善を尽くしました」
「分かってる。分かってるけど・・・」
その人はふと振り返り、突然私を直視してきた。
『お前はここに二度と来ないと誓えるか?』
低いテノールのような声が私の頭の中に響いた。
『お前と私とは縁が深い関係だ。だが心までお前を許したわけではない』
恐い、この人は恐い。
『そして、お前は自分の「チカラ」を無差別に解放しすぎた。その罰として、二度と私たちの目の前に現れるな』
眩い光が差し込んできた。
低いテノールの声は最後に強烈なメッセージを残した。
『消えろ』
― ― ― ― ― ―
「ん・・・」
森林みたいな場所で、私は目覚めた。
「お、気づいたか?」
「大丈夫?お姉ちゃん」
ひょこっと顔を出してきたのは懐かしい顔だった。
「ジタン・・・ビビ・・・なんで・・・」
何故ジタンとビビがここにいるのか分からなかった。
「皆は・・どうしたの?」
「俺たちとリーズは無事だ。でも、おっさんとフライヤと・・・ベアトリクスは-」
私はジタンの服をぎゅっと強く掴んだ。
「最初から話して・・!!」
------
「そう・・・そんなことがあったのね・・」
私が眠っている間に、いろんなことがあったらしい。
ブルメシアの滅亡、クレイラの破壊、召喚獣の存在、お母様の裏切り、それに対するスタイナー達の抵抗・・・。
「なんで、私は眠っていたのかしら・・・。皆、皆必死だったっていうのに」
そして・・・あの夢。
『そして、お前は自分の「チカラ」を無差別に解放しすぎた』
おそらくあれはリーズさんの中にいる「バッシュ」なのだろう。
「ずいぶん遠くまで来ちまったから、皆の所存や生きているかさえ、わからない。
でもタンタラスもフォローしてくれてるし、大丈夫さ!」
苦笑してジタンは話し続ける。
私を励ますかのように。
「とっくに脱出して今頃トレノでオレ達の事捜しているかもしれないぜ?」
「だったら、リンドブルムで飛空艇を借りられないかしら?南ゲートまで行ければトレノはすぐだわ。ここはリンドブルム城の近くにあるピナックルロックスだし、結構近いの」
「果たして、それまでその「チカラ」の暴走は止めれるかの・・?」
老人のような声が聞こえた。
私を含めて全員振り返る。
色でいうと「黄色」のような老人だ。
「我が名はラムウ」
「・・・!!まさか・・・貴方は雷帝ラムウ・・・ですね?召喚魔法に関する文献で貴方の名前を見ました」
「そなたの無差別なる「召喚魔法」により、クレイラは消滅寸前にされた。消滅まで至らなかったのは世界を守ろうとした獣のお陰ともいえるであろうがな」
「それは・・・フレアのことか?フレアは無事なのかっ!爺さん」
「あの衝撃だ。無事ではあるまい・・・。それに獣にとっては環境が悪すぎじゃ」
「フレア・・・」
一番心配していたのはビビだった。
ビビは悲哀の瞳でラムウを見つめていた。
「だが、あれはダガーが詠唱したわけじゃないだろう?」
「確かに、あれは第三者が発したもの。だが、我が問いはひとつ。そなたはどうするのだ?このまま「チカラ」を解放されたままだと第ニ第三と被害が広がるばかりじゃ」
「私は・・・」
ぎゅっと首からかけっ放しだった赤の宝玉を握り締めた。
「このチカラをコントロールしたい!!」
「再び過ちを起こすつもりか?」
「私、この「チカラ」・・・召喚魔法が怖かった。でも、もう逃げません!」
「・・・ならば、条件はただ一つ」
ラムウの瞳が鈍く光った。
「我と戦い、勝ってみせろ!!」
「って、ダガーには無理だって!俺も戦うぜ!」
「僕も!」
守ろうとする二人の少年達。
「ジタン、ビビ。ありがとう。でも・・・私は決意したんです」
このチカラを絶対にコントロールしてみせる。
そして・・・リーズさんとバッシュさんに認めさせてみせる。
「雷帝ラムウ、特訓の程よろしくお願いいたします!」
------
ダガーのやる気とは裏腹に、やはりその「強大な力」は持て余される事は無く。
今日で3日が経った。
「はぁ・・・」
がくりと魔力の制御に疲れ果て、ダガーは膝を落とした。
「・・・まだまだじゃな」
ラムウは溜息をついた。
分かっている。分かっているんだけれど・・・。
どうすればこの魔力は制御できるのか。
そして。
ちらりとダガーはリーズが寝ているほうへと顔を向けた。
(私の所為。私の所為で・・・バッシュさんを怒らせたんだ)
そう考えた刹那。一気に体の力が無くなり、その場にばたりと倒れてしまった。
「おい!ダガー!!しっかりしろ!」
ジタンの不安そうな声だけを聞いて、意識がなくなった。
― ― ― ― ―
ふと私は目を開けてみた。
あの時見た、小さなボロボロのリーズさんが不安そうに私のほうを向いてきた。
「リーズ・・・さん?」
ぎゅっと小さな手でリーズさんは私の手を握ってくる。
後ろには、酷く私を睨みつけるバッシュさんがいた。
「私の・・・私の所為で・・・バッシュさんは・・・リーズさんは・・・」
リーズさんは左右に首を振った。
「もういい。もういいから・・・」
「良くない」
しっかりと言ってきたのはバッシュさんだった。
「お前の所為で、私たちは滅茶苦茶になった。あの時と同じ事を言う。消えろ」
「だめ!バッシュ!!」
バッシュさんに向かってリーズさんは叫んだ。
「だって・・・だってダガーは・・・」
その言葉の後が聞こえ辛く、急激に襲ってきた眠気に負け、奥深くへと眠りについた。
「ダガーは、私と・・・―」
― ― ― ― ―
しばらく眠りについていた私は、朝早く水辺へと来た。
不安と自分を責めている私の顔は何故だかげっそりとしていた。
リーズさん、バッシュさん。
ごめんなさい。
全て、こんな私の所為です。
もうどうすればいいのか分かりません。
もう・・・死にたい。
【それは駄目・・】
清らかな声。
私はあたりをきょろきょろとした。
【貴方は・・・私たちを忘れてしまったけれど・・・それでも大丈夫】
きらきらとした結晶が集まっていく。
それは「氷」。
冷たい冷気があたりを包み込んでいく。
それは形つくられ、やっと声の正体が分かった。
美しい・・・女性がそこに立っていた。
「誰・・・。貴方は・・・誰・・!?」
【思い出してください・・・主】
主・・・?
頭がずきずきする。
恐い。怖い・・・!!
【貴方はもう大丈夫です。さあ、思い出してください】
・・・・・・・・頭が痛い・・・。
・・・角・・・。
・・・・・竜・・・火の子・・・。
・・私・・・可愛い不思議な・・・アトモス・・・。
バハムート・・・氷の・・子・・・。
・・・イフリート・・・。
氷の子・・・シヴァ。
思い出した。
「シ・・・シヴァ・・・?」
にこりと微笑んだシヴァ。
そしてそっと私の手になにかを渡してくれた。
【もう大丈夫です。私の召喚で貴方の力は制御されるでしょう】
そう言い、シヴァは氷の粒をきらきらさせ、消えていった。
私の手に握られていたのは「青のオパール」。
私はそれをそっと握って呟いた。
「・・・シヴァ・・・ごめんなさい・・・ありがとう・・・」
------
『ダイヤモンドダスト!!』
「お・・・お早う、ダガー・・・って わっ」
未だにおきたばかりのジタンは突如自分が氷漬けにされそうになり、なんとか避けた。
「あ・・・危ないなぁ!」
「あ、ジタンお早う」
昨日とは裏腹のしっかりとした口調のダガーを見て「う・・うん。お早う」とつい言ってしまい。
自分が危険だったっていうのにそれを指摘しない哀れなジタンであった。
------
ぴくり、と少女のエルフの耳が動く。
「精霊の声が、聞こえたのか。フレイア」
冷静な声がその場に広がった。
声の主は白い髪をしていた。瞳は人は睨みつけられたら凍えるほど震え上がる灼熱の赤。
しかし、フレイアはその瞳はとても優しいオーラに包まれていることを知っている。
「うん・・・。でも。もしかするとお姉ちゃんかも知れない」
「確かに。フレアがこの世界に来ているということはオメガを通じて分かっている、が」
不安がよぎる。
「・・・何事もなければいいが・・・」
星の民一族 氷獣を司る「シガン=リヴァイス」はこの世界で何かが起こるような気がしてならなかった。
自分のチカラでは出来ない事でもないが・・・。
― ― ― ― ― ―
ふむ、と雷帝は静かに言った。
「・・・確かにそのチカラ、安定したな。分かった。我のチカラもそなたに預けよう」
ふわりと雷帝ラムウは浮かび空に散っていった。
・・・空からきらりとしたものが舞い降りてくる。
「黄のペリドット・・・ラムウ、ありがとう」
------
朝の日差しが眩く輝いた。
「ん・・・」
リーズは眠たそうにのっそりと起き上がる。
そして一つ溜息。
(全く・・・。バッシュったら・・・なかなか言うこと聞きませんね・・・)
とはいえ彼女も【神獣】の一種。
少し怒りっぽく心配性なのは分かる、が。
(仕方ないとはいえ・・・「大嫌い!!」って言ってしまったのはまずかったのでしょうかねぇ・・)
「リーズさん、起きてたんですか」
溜息をついているリーズを見つめているダガー。
「あら・・・」
ダガーを見てすぐさま分かった。
あの暴走さえしているチカラが、すっかり無くなっている。
「チカラの制御・・・うまくいったんですね?」
「ええ」
こくり、とダガーは頷く。
「バッシュさん・・・まだ怒ってますか?」
リーズは首を横に振った。
「・・・逆にひっこんでしまいまして」
「またなんで・・・」
「いえ、大した事無いんですけどね」
「もしかして・・・私の所為ですか?」
「違いますよ。ただ・・・」
自分が言った言葉はそれ程重かったのだろうか。
そう思いつつ溜息をつきつつ言った。
「さすがにごちゃごちゃうるさかったもので、つい「バッシュなんて大嫌いっ!!」っていってしまいましてね」
------
「にしても、久しぶりに戻ってきた感じだな~」
夜空が光り、一つの大きな城が浮かび上がっている。
そう。
ジタンたちはついにリンドブルムへと戻ってきたのだ。
「ホント。ここまで来るのが長かったわ・・・」
はぁ、とほぼ眠っていたと思われるダガーは言う。
だが、王女としては本当に長い長い冒険だった筈だ。
「ですね・・・。後はフレアの居場所が分かれば・・・」
クレイラを瀕死状態ながらも守り抜いたフレア。
相棒であるリーズは彼女の行方が分からずにいた。
あれだけの衝撃、そして解放されたチカラだ。
アースの優秀な【ガーディアンフォース】だからとて無事であるはずが無い。
「それとおっさんたちが無事に生存してるか、だな」
アレクサンドリアに残ったスタイナー、フライヤ。
そしてブラネを裏切った、ベアトリクス。
彼らも強いが、無事であるとは考えにくい。
4人とも仲間の無事を祈っていた。
そして何事も起きないことを・・・。
だが。
その祈りは通じなかった。
「ジタン、あれ・・・!」
驚きつつもしっかりと「あれ」に指を指すビビ。
それを見たジタンたちは驚愕する。
「レッドローズ!?」
目の前での惨劇は恐ろしいものだった。
主砲が火を噴き、あのガラクタのような面白い町を粉々に、そして赤く染めていく。
その間にレッドローズは鈍い光を放つ。
「あの光はテレポット!?城内に直接、黒魔道士達を送り込んでるんだ!!」
「そんな・・・」
がくりと膝を落とすダガー。
そして大きな召喚獣が現れた。
口が大きく全てのものを飲み込んでいく。
黒魔道士達も、生きている両国の兵士でさえ・・・。
ダガーの耳に微かに『苦しい』という声が囁いた。
(・・・アトモス・・・。ごめんね。ごめんなさい・・・)
ぽたりと涙が落ちた手のひら。
その手のひらには、悲しみと共に棄てられた紫色の「アメジスト」が乗っていた。
------
リーズが目の前のリンドブルムの惨劇を見て呟く。
「静か・・・ですね」
あんなに盛んで、明るい町が 一瞬にして、しかも自分達の目の前で無くなろうとは・・・。
「何て酷い事を・・・。リンドブルムにまで手を出すなんて・・・。しかも私の力も使って・・・」
そう言い、ダガーはちらりとリーズを見た。
「大丈夫ですよ。これは貴方の所為ではありません。貴方の力を利用した方がいけないのですから・・・」
「おいおい。気を抜くなよ、奴らまだいるかもしれないからな。ビビ、お前はこの辺に隠れてろ」
ジタンのその言葉にビビはびくりと震え上がる。
「えっ! 怖いよ、ボクそんなの嫌だよ!」
「アレクサンドリア兵がここにいるんだ。黒魔道士のお前がうろちょろしちゃまずいだろ?」
「う・・・うん。でも―」
「そんなにビビるなよ、すぐ戻ってくるからさ」
「ごめんなさい、ビビ。しっかりと隠れて待っていて下さいね?」
ビビの瞳を見て、リーズはにこりと微笑んだ。
「うん、分かった。でも本当にすぐ戻ってきてね!」
------
「にしても、奥にいくほど被害が大きくなっていくな」
「ですね・・・。それに、住民達の黒魔道士に対しての殺意が予想以上に強大です」
「ビビを連れて来なくて良かった・・・。連れて来てたら・・・恐らく彼らに」
三人とも、町の被害に対して呟きつつも城の方向へと歩いていく。
やっと町の中心街に出た時、ダガーにとっては懐かしい声が聞こえた。
「工場区は完全に破壊、商業区、劇場街も酷い状態です!!」
「兵員を復興作業に回そう。一日も早く民の暮らしを取り戻すのが先決だ」
「わかりました」
「オルベルタ様!」
文臣オルベルタはダガーの声に対して、後ろに振り向く。
「ガーネット姫、ジタン殿!それに、リーズ殿! よくぞご無事で」
「シドおじ様は・・・?大公殿下は無事なの!?」
「ご安心くだされ、城は攻撃を免れたのです。大公殿下は怪我ひとつしておられませんぞ」
ほっ、としたのか ダガーは安堵の溜息をつき「良かった・・・」と呟いた。
「さあ、殿下の元へご案内いたしましょう」
リンドブルム城は少し煤に汚れているものの、全壊はしなかったようで、きちんとそこに建っていた。
「ガーネット姫がお戻りになりましたぞ!」
「おお、ガーネット姫、無事であったか!ブラネに捕まったかと心配してたブリ!」
「ジタン達が助けてくれました」
「礼を言うブリ、ジタン。そしてリーズよ」
「でも・・・。わたし達を城から逃がすためにフライヤさん、スタイナーとベアトリクスが城に残る事になってしまったらしく・・・」
「ほう、音に聞こえたあのベアトリクスが、あの者が一緒ならきっと皆、無事だろうブリ」
「オレもそうと思うぜ、ダガー。城をちょっと離れるだけのつもりがピナックルロックスまで出て来ちまったけどさ。あいつらに限って、滅多な事ではやられないって!アレクサンドリアの2強と強い竜騎士が残ってるんだ!」
「ピナックル・・・。おお! ガルガントか?」
「ああ・・・。まぁ、脱出する時はリ-」
自分の名前を出されるといけないと思い、ジタンの軽い口を押さえるリーズ。
代わりに「詳しいですね・・・」とリーズは言った。
「こう見えても一国を預かる立場。周辺の情報収集は怠っておらんブリよ。だが、如何に情報を集めようともそれを使う者が愚かではどうしようもないブリ。
事前の調べでブラネ女王が召喚獣の力を手に入れようとしていた事はわかっていたブリよ。
・・・しかしワシは召喚獣の力を侮っておったブリ。あれほど凄まじいものとは思いもよらなかったブリ。ワシがこのような姿なのは道理というものかもしれんブリ」
「でも降伏したのは正しかったと思うぜ。抵抗した挙げ句、クレイラは消える寸前までいったんだからな・・・」
「そうです。そういえば、お聞きしたいことがありますが、召喚獣に対峙した獣が何処に行ったのか・・・分かりますか?」
「情報によれば、リンドブルム近辺の沼地へと姿を消えたらしいブリ」
「・・・そうですか。貴重な情報、ありがとうございます」
「おい、まだ動いている黒魔道士兵がいたぞー!」
「あ~? 何だ? こいつ他の奴より小さいな!?」
後ろからざわざわと兵士が騒ぐ。
「痛いよ、放してよ。ボクは違うんだってば・・・」
「!! あの声はまさか・・・」
そこに連れてこられたのは、黒魔道士兵と間違えられたビビだった。
「住民に暴行を受けていた黒魔道士兵を保護しました!」
「違うよぅ。ただ、お腹空いていただけで・・・」
「下がってよい、ビビ殿は黒魔道士兵ではない。黒魔道士の格好をしているが・・・それは敵を欺くため、味方である」
「そ、そうでありましたか。これは大変失礼しました!」
すぐさま解放され、ほっ と溜息をつくビビ。
「話を戻すブリ。ブラネ女王に関する情報は召喚獣だけではないブリ。この一連の戦争の裏にクジャと名乗る謎の武器商人が絡んでいるブリ。クジャは高度な魔法技術を用いた装置や兵器をブラネに供給しているブリ。黒魔道士兵もその一つブリ」
「高度な魔法技術」。
その言葉にリーズはふと疑問を一人で抱き始めていた。
「トレノでクジャを見かけたという者の話によれば、クジャは北の空より銀色の竜に乗って現れるそうです」
「北の空・・・?北にも人が住んでいるんですか?」
「世界には、まだ未開の大陸がいくつもあるんだ。
北の空、通称『外側の大陸』って言うんだけど、この霧の大陸の北にある未知の大陸の事さ」
「外側の大陸に魔法を操る種族がいるのかはわからんが、ブラネに武器を供給しているのはクジャひとりのようブリ」
「わたしが城で見た人物も、多分そのクジャと名乗る者。その人がお母様をたぶらかせているのかもしれません!」
クジャに催眠をあっさりかけられ、プラスアルファで自分が大切に閉じ込めてあった力を無防備に解放させた・・・。
だから・・・「じゃあ、クジャを倒しちまえば!」「きっと、クジャさえいなくなれば・・・」
「そう、ふたりとも理解が早いブリ。クジャを倒せば、武器が供給されなくなり、ブラネの力は弱まる。その時が反撃の好機ブリ!!」
「今正面からブラネに挑んでもまた多くの命を失うだけ。勝ち目はありませんから」
「諸悪の根元を潰すって事か」
「そうです、たとえブラネを倒せたとしても・・・いずれクジャは新しい取引相手を見つけるでしょう」
「母が犯した罪は重い・・・。でもその陰でクジャが動いていたのなら、わたしはクジャを許せない! 私、クジャを捜します!」
「如何せん、ワシはこの通り動きが取れん。民を守るため、兵を割く訳にはいかんブリ。それに残念だが、飛空艇の動力となる霧はこの霧の大陸にしか存在しないブリ。だから、飛空艇で海を越える事は出来ないブリよ」
「それに、ブラネに全ての交通を強制的に停止されているだろうからな・・・」
「どうにか、その大陸に行く手段はありますか?」
「唯一つある。リーズ殿に言った「獣が消えた場所」と同じ沼地にかつての採掘場があるブリ。その採掘場付近にはこの大陸に生息しないはずの魔物が現れるブリ。採掘中に見つかった大きな空洞を突き進むと海をくぐって別の大陸に出る・・・。
という「噂」があるブリ・・・」
「噂かよ・・・。雲を掴むような話だな。本当にそこからいけるのか?」
「保証は無いブリ・・」
「行ってみなきゃわからねえって事か・・・。まあ、わからねえ方が楽しみが増えるな!」
「ガーネット姫を頼んだぞ、我々も反撃の準備をしておくブリ」
「そういえば、ビビも来るのか?」
こくりと小さな黒魔道士は頷いた。
「ボクも行ってみたい・・・。この大陸には、もういられないから」
「では、私もそこまで一緒ということですね。よろしくお願いします」
『外側の世界』・・・。
そこには一体何が待ち受けているのだろうか?出会い?別れ? ・・・それとも。